ほーりー

日本の悲劇のほーりーのレビュー・感想・評価

日本の悲劇(1953年製作の映画)
4.0
【木下惠介特集⑤ フラッシュバックは無音で突然に】

木下監督としては『二十四の瞳』と並んでキャリアの両極に位置する作品だと思う。

戦争未亡人(望月優子)が終戦後、闇屋や水商売に身を落としながらも必死に二人の子供(桂木洋子&田浦正巳)を育てようとするが、一方、子供らは堅気ではない母に嫌悪感を抱きやがては母と絶縁するという極限の人間ドラマ。

一見すると子供たちのあまりに母親に対する冷淡な扱いに閉口してしまうが、子供たちには子供たちなりの態度を硬化させるだけの理由は描いており、母親にも子供たちにもどちらも言い分があるので一層観ていて苦しい。

ドラマは子供たちがある程度大人になった昭和28年(つまり公開当時)頃から始まり、時折回想形式で戦後直後の貧しい時代の出来事がフラッシュバック形式で語られる。

そのフラッシュバックは、突然劇中にインサートされ、台詞のあるシーンもあるが、全く無音になったり、あるいは望月優子の声だけということもあったり、かなり斬新な編集がされている。

考えてみれば実生活でもフラッシュバックって過去の出来事がフッと蘇って、その場面も音があったり無かったりなので、回想ってリアルに描くとこういうことなのかなぁと思った。

あと本作は長回しも凄い。夫の墓の前で息子から突き放される場面をワンカットで撮影している。これはスタッフと役者の気持ちがひとつにならないと絶対に上手く撮れないと思う。

また終盤の湯河原駅の場面では、ホームでひとり佇む望月優子の姿を捉え、遥か向こうから列車がこちらに迫ってくるまでをじっくりと描くことによって、観客の心を掴んで離さないようにしている。

本作品は何と言っても望月優子の名演につきる。不美人な女優さんだけど、三味線弾き語りする際にフッと見せるイキイキとした顔に美しさを感じた。

そして一番怖いと思ったのは娘役の桂木洋子で、過去に親戚から手込めにされた過去から人間不信に陥っており、行動パターンが全く読めないキャラである。

通っていた英語塾の先生(演:上原謙)と恋仲に発展し、上原の奥さん(演:高杉早苗 この高杉も怖い)から激しく叱責されてもびくともしない。

むしろ他人の家庭がメチャクチャになっている姿に思わず笑みがこぼれる(そしてその後、悲しげな表情する)などその心の奥底にある闇がどす黒い。

ラストシーンに佐田啓二が弾き語る『湯の町エレジー』の悲しい旋律が無情感を帯び、ただ単に暗かったとか重かったとかの感想ではすまされないような印象を与える。

■映画 DATA==========================
監督:木下惠介
脚本:木下惠介
製作:小出孝/桑田良太郎
音楽:黛敏郎/木下忠司
撮影:楠田浩之
公開:1953年6月17日 (日)
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