ジャック・タチの集大成。
ガラスの超高層ビルや空港など2500平方メートルもの巨大なセットをパリ郊外に作り、撮影期間2年、1093億(!!!!!)もの私財を投じて作られた作品。
なのにたった1,100円しか払わずタチの魂に触れられるなんて…心は2時間正座して観ましたとも。
細部まで計算された画面構成とカメラワーク、全てがセットだとは思えない完璧な美術。
でもそんな事は関係なくユロ伯父さんはいつも通り。
さしたるストーリーもなく、近未来のパリを彷徨い続ける。
ここまで何作か続けてタチ作品を観てきたけど、彼が伝えたかったことが一番明確だったと思う。
ほんわかショートコントの積み重ねの中に、浮き出してくるもの。
無機質な高層ビルに囲まれ色を失った街角にポツンと佇む花屋。
ガラス戸に写ることでしか見えないエッフェル塔。
妙な発明品に惑わされる人々。
新装開店した超近代的ナイトクラブの居心地の悪さ。
タチは古き良きものが失われたことを憂いた。
それでもスカーフに描かれたパリに思いを託し、街路灯を花に見立てる。
私は彼のこの感性が好きだ。決して責めるわけでも諦めているわけでもなく、それでも人を街を愛している。そんな暖かい余韻が残る彼の作品が好きだ。
全ては作り物。その中でユロ伯父さんも観光客も私たち観客も右往左往。
でもそれでいい。これはただの「プレイタイム」なんだから。
そんなタチの笑い声が聞こえてきそうだった。
今作は興行的に大失敗し、タチは破産に追い込まれる。
しかし全身全霊を捧げた作品は今再評価され、私にも劇場で観れるチャンスが回ってきた。
この失意の中「イリュージョニスト」の脚本を書き出したのかと思うと、彼の原点回帰が私のタチとの出会いだったことがとても嬉しい。
また「イリュージョニスト」を観ようと思う。タチシェフはタチそのもの、彼の核だったと一周してわかった。
そしてきっとタチは喪失感から自由になり、また旅を続けた。彼が演じるタチシェフが観たかったな。
【ジャック・タチ映画祭】にて