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タイム・オブ・ザ・ウルフのnetfilmsのレビュー・感想・評価

タイム・オブ・ザ・ウルフ(2003年製作の映画)
3.7
 不明瞭なカタストロフィの後、両親と姉弟の4人家族が別荘へと向かう。ただ『ファニー・ゲーム』のように裕福な家族のバカンス滞在ではなく、何やら深刻な事情であると察せられる。彼らは少ない食料や荷物を車に積み、自分の別荘に入るとそこには猟銃を構える男がいた。今作では平和な空間であるはずの部屋に、最初から別の人間が籠城する。猟銃を構えた男はやがて発砲し、父親は無残にも殺される。備蓄のために持ってきた食料や車は全て奪われ、家族3人は露頭に迷う。昼間はただひたすら歩き近所の人に食料を恵んでもらい、夜になると暖を取れる木製の納屋で寝泊まりする。何とか3人で暮らす平和な空間を見つけ安堵する主人公だったがなぜか息子が居なくなり、娘と2人で息子の姿を一晩中探し続ける。そこで娘は焚き火を大きくし過ぎるあまり、木造の小屋を全焼させてしまう。やがて朝になり日は鎮火したものの、平和な空間は跡形もなくなっており、その代わり少年に連れられて息子が戻って来る。少年も連れた4人で線路沿いをただひたすら歩いていく。やがて貨物駅を見つけ、そこで集団疎開する1つの集団を迎え、彼らとの共同生活が始まる。学校の体育館に作られた仮設の避難小屋のような粗末な空間は仕切りも何もない。プライバシーも何もない3人の重苦しい生活が幕を開ける。

 少年は彼らとは別行動で、森の中で野宿生活をする。彼にとってその共同生活は苦痛以外の何ものでもなく、彼らの配給を受けない代わりに何の制限もないひとりぼっちの野宿生活を選択する。やがて貨物駅には続々と人間が集まり、立派なコミュニティとなる。そこでは常にいさかいが絶えず、およそ文明社会に育ったとは思えない人間のエゴが噴出する。人間は極限状態に置かれた状態で罪を見つけた時、必ず最初に移民や自分より下層の人間を疑う。当たり前の倫理は時に当たり前の憎悪を生み、社会のバランスはゆっくりと歪んでいく。後半の父親を殺した加害者家族と被害者家族の再会はそれ以上に容赦ない。加害者家族は当然罪を否定する。非常に生々しい動物としての生存本能を、戦争映画とはまったく別の形で提示して見せたあまりにも美しく残酷なシーンである。だが滅び行く世界と生まれ変わる世界を描いた物語は、少女が自死に至る理由が判然としない。その前にナイフで脅されレイプされる場面があっただけに繋がりは予見出来るが、今ひとつ釈然としない。アンドレイ・タルコフスキーの『アンドレイ・ルブリョフ』のような物語は、暴力を断ち切るための無垢なるものの贖罪で幕を閉じる。
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