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山の焚火のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

山の焚火(1985年製作の映画)
5.0
【河瀨直美『Vision』に足りないもの全て盛り】
スイスかどっかの限界集落での生き様を描いた作品。話自体は凡庸で、僻地で「アダムとイヴ」やエディプスコンプレックスものをやっているだけだ。

しかし、この作品はブノワ・ジャコの『かごの中の子供たち』同様、他の作品を大きく引き離し、観るものの心の最深部にまで槍を刺す作品だ。

限界集落の一家。発話障害の息子は父に虐められている。そんな彼を優しい姉が面倒を看る。少しずつ、二人の間に肉欲の愛が結ばれていく。

テイストは河瀨直美『Vision』と似ている。しかし、こちらには『Vision』で著しく欠けていた、《本能》がしっかり描かれている。

雲よりも高いところに住み、「人々」という群から隔絶された場所で、人は野生動物と同類になる。突発的に動き、肉欲には抗えない。自然がコントロール不可能なように人もまた制御不能だ。歪んだ音、そして現実離れした身体の動きを通して、人類の原子に巡り合う。この自然と動物の関係性をスピリチュアルな映像と共に掘り下げていく。面白くも残念だった『Vision』。これが傑作だったらどんな映画だったのかを『山の焚火』は教えてくれました。

TSUTAYA渋谷店に眠る傑作です。
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