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黒蜥蜴のtakのレビュー・感想・評価

黒蜥蜴(1968年製作の映画)
4.0
江戸川乱歩の原作を三島由紀夫が戯曲化、丸山明宏(美輪明宏)主演の舞台は好評を博した。本作はその映画化である。生息地の老舗映画館がサスペンス映画特集として1週間の上映。クエンティン・タランティーノ監督はあの「キル・ビル vol.1」で犯罪者たちを束ね、暗黒街に君臨するるオーレン・イシイのモデルとして、この黒蜥蜴をイメージしていたと聞く。しかもDVDはリリースされていない。もう行くしかないでしょ。

秘密クラブにカメラが進んでいく冒頭から妖しく淫靡な雰囲気が漂う。ボディペイントしたようなお姉ちゃんたちがゴーゴーを踊り、客たちは肌も露わな女たちを抱きすくめる。そんな店の様子を二階席から見下ろしているのが、主人公である名探偵明智小五郎(木村功)。やがて店の女主人緑川(丸山明宏)が現れて歌い始めるオープニング。タイトルバックに映し出されるオーブリー・ビアズリーが描いた有名な「サロメ」の絵。もうこの数分間で妖しさはMAX。スクリーンのこちら側の僕らは、この異様な物語の結末を見るまでもう戻れないと覚悟を決める。

やがて宝石商の令嬢早苗(松岡きっこ)を誘拐するという犯罪予告が届き、彼女を守るべく明智が選ばれる。予告時刻が迫る中、宝石商のお得意である緑川夫人が現れ、明智と一緒に犯行時刻まで一緒に過ごす。しかし、犯罪組織の首領黒蜥蜴であることを明智に見抜かれ、誘拐は失敗に終わってしまう。だがそれであきらめる黒蜥蜴ではなかった。再度早苗の誘拐に成功した彼女は、ダイヤモンド「エジプトの星」を要求。早苗の身に迫る危機・・・。

90分足らずの映画なのに、起伏のあるストーリーが物足りなさを感じさせず、何よりも強烈なビジュアルに最後の最後まで圧倒される。そして何よりも、丸山明宏の魅力。女主人には見えないという意見があるのはわかるが、この強烈なキャラクターを他に誰が演じられるというのか。ホテルを脱出するのに男装したり、絢爛たる衣装をまとい、時に高笑い、時に泣き崩れ、様々な顔を見せてくれる。戯曲も彼のために三島由紀夫が書いたものだと聞くが、この映画も丸山明宏を観るための作品。劇中披露する黒蜥蜴の歌も印象的だ。

人物の魅力だけでなく、この映画はディティールを見るのも面白い。江戸川乱歩作品らしく怪奇色が強いのも特徴だ。冒頭のクラブ内部の内装だけでなく、解剖用の死体が浮かぶプールから人間剥製の館まで次に何が出てくるのか目が離せない。クライマックスの人間剥製の場面には、三島由紀夫が登場。三島と丸山の接吻はこの映画の見どころのひとつと言えるかも。また、部屋の様子を俯瞰で撮ったり、ガラステーブルを使ったり、カメラワークも面白い。巨大なトランクに閉じこめられた松岡きっこの裸をなめるように撮る視線は、この映画の中でも忘れたくない場面のひとつ。

仰々しい台詞のひとつ、ひとつ。上映時間90分に大胆な表現の数々を詰め込んだ意欲的なカルト作。ツッコミどころも強引と思えるところもあるけれど、それも魅力。
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