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ベンジャミン・バトン 数奇な人生のJIZEのレビュー・感想・評価

3.6
奇才フィンチャーが時の概念を逆様に操作し衒う数奇な運命が放つ人生讃歌な感動譚!!本作の監視は確か数回目で今年観たのは今回が初。まず言える事がヒトの長き人生同様,尺165分の長尺な構成。万物の霊長が稀少な死と向き合う甘美で残酷な因果応報に適う重厚な構成である事を噛み締めなければいけない..結論を申せば,時,人生,可能性,個性など人類に捧ぐ痛烈な風刺が込められた重厚な映画に思う。監督が作品を通じ観客に投げ掛けた事。つまりこういう事なんだと思う。要するに,人生(生涯)の幸不幸が指し示す指標を"若返る事(若者)"と"老う事(老人)"で極端に認知を片付けず瞬時の有限な概念を深々と敬い人ひとりが持ち併す単体の独特な個性で指標を測り常に物事は前向きで寛容に捉えるべきだ..と。むしろ監督は消極的な考えに及ぶ惰性を捨て前衛的な価値観を固く肯定しているようにも観て取れた。当然フィンチャー節も炸裂。クラシカルな画作りorファンタジックな寓話性or過剰な情報量。本作は到底,専門的な知識が映画を読み解く過程で必要とされず万人向けに開かれた映画である事も間違いないだろう。

概要。1922年に執筆されたF・スコット・フィッツジェラルドによる短編小説をもとにエリック・ロスとロビン・スウィコードが脚本を担当。監督は『セブン』や『 ファイト・クラブ』で知られる奇才デヴィッド・フィンチャー。尚,第81回アカデミー賞®作品賞を含む13部門にノミネートされ美術賞,視覚効果賞,メイクアップ賞を受賞。また本作はフィンチャーと主演ブラッド・ピットの2人にとって3作目のコンビ作品となりました。

お話自体は80歳代の容姿で生誕した男が,年齢を重ねる度に若返る数奇な孤独や不安に苛まれながらも周囲との関係性を構築しいずれ来る死と向き合いながらも自身の運命を力強く肯定していく...寓話性に飛ぶ不運な人生讃歌物or愛物語を悟る純情譚だろうか..脚本自体は奇抜な若返る設定を含め体系的に同じ人間とし興味深い映画である。またベンジャミン自身が成長を遂げる過程でも"変わる事"と"変わらない事"を彼が若返れば若返る程に迫られ周囲の衰弱とベンジャミンの成長が不可逆な現在を意識させ数奇な運命を炙り出す構図は扱う題材だけに残酷だが神秘的な余韻が集積し負荷させる。

断片的な生涯の切れ端を物語の編集力や映像の少し達観視点で浮き上がり気味な躍動感を通じ主張し説得力を補う点では美点であり確かな手応えを覚えた。この映画の場合,曖昧なフィクションである寓話的なフィルターを掲げる矢先,実際そこに存在しているものとして肯定し一般的な常識の枠組みに尺165分を用い浸透させた事でリアリティ境界の本当の真実味が息を吹き込み大々的に嘘が塗り替えられる。虚と実を疑わさせない絶妙な語り口で実感でき考えさせられる映画に着地を魅せた構造はそれだけでも世界観の創造がクラシカルな方向に卓越し主演ブラピ&ケイトブランシェトの手腕を勿論否めないが観る側の興味を絶やさないリアリズム構造は唸らざる得ない。

映画全体を通じ背景や語り口は実に寓話的なんだけど妙に現実離れせず,むしろ一般的な常識,情,価値観に深く乗っ取り人生の移ろいを機微でホロ苦く鮮明なドスンッと響す説得力で観客側に意識を集積させ映画全体に落とし込む..円環構造で幕を閉じる1,2歩引いた客観視点も後日譚的な後付けで構成的に見事。終盤,街を襲う暴風雨のメタファが正直読み解けなかったが(美術面含め)上質な見応え豊富の作品に仕上がっていたと思います。少し踏み込めば単体で存在する偏った物の見方なり1方向的な概念の提示やある凝り固まった認知に対し様々な意外性を肯定しマイノリティ含む多岐に渡る個性を尊重した人生讃歌を跨ぐ(上述でも発したよう)風刺が込められた映画に思う。尺同様に切り口が豊富なので友人,家族,恋人と解釈を意見交換し話し合いながら楽しめる実直な娯楽作品ではないだろうか。あと現在怠慢を迎えている者にも必見。お勧めです!!
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