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ベンジャミン・バトン 数奇な人生のRenのレビュー・感想・評価

3.0
原作未読。多くの人が言うように、同脚本家の『フォレスト・ガンプ ~』に非常に類似した作品。自分は『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(映画未見。小説のみ)も想起したけど、時間の流れにフォーカスした人生譚として良作だと思った。

笑いやスリルなどジャンル映画的な要素を極力排除し、人生における出会い・別れを軸にヒューマニズムを描くことに徹した、フィンチャーの中でも比較的珍しいタイプの作品。どのシーンも一枚絵としての美しさはバシッと決まっており、その辺りは彼の広告出身監督としての手腕が活きている。

常に死の香りが漂い続ける映画。老人の姿で生まれたベンジャミン(ブラッド・ピット)は、幼い頃から老人の友人を持ち、人との別れを身近に感じて生きてきた。彼は、人は必ず死ぬものであり永遠などは存在しないという哲学を体現するキャラクターとして描かれる。歳をとる度に若返る、一見羨ましくもあることを彼は抗えない現実として淡々と受け入れていく。
「永遠はあるのか」という問いに真摯に向き合った作品。彼はデイジー(ケイト・ブランシェット)と出会い、彼女との日々を過ごす中で、年齢的に噛み合う時は少ないけどそれでもそこで感じた愛によって「人の想いに永遠はきっとある」と感じるようになる。語り尽くされた綺麗事のような哲学だけど、そこに辿り着くための仕掛けがきちんとある。

作品の印象的なモチーフは、逆回転する時計とハチドリ。
数字の8が表すのは永遠(無限=∞)というエピソードもあったように、ハチドリは死と密接する形で登場しており、前述の「永遠」を示唆するように出てきている。
逆回転の時計は一見本編との繋がりが薄く浮いている気がしなくもないが、個人的には ①本編導入への潤滑油(人生を逆回転するように生きるベンジャミンの前に逆回転時計を出すことで設定への理解をスムーズにする)②時間とは進んでいても戻っていても同じように “止まらない“ ものであることの象徴 ③ベンジャミンそのもののメタファー などの意味で効いていたと思った。ただラストシーンを見るに、③の意味合いが強いのかなと感じる。回想形式で語られてきたベンジャミンの人生がある形で終わったことを示唆するために、その表現をこの時計に託したのでは。

残る未見のフィンチャー作品は『エイリアン3』と『Mank/マンク』。近いうちに観ようかな。
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