美術館に入って端から端までゆっくり観て歩いたような、芸術のような映画でした
冒頭から全体を通して悲劇であるのは間違いないのだけど
数奇な運命を背負う悲しげな主人公に対し
彼を支えるまわりのパワーがすごい。
多少強引なまでに、人生の楽しみ方を教えてくれるその人たちが全員
ものすごく魅力的だった
そして必ずつきまとう、死。
どんなに強く明るい人でも、志しある人でも
この映画では息をするかのようにひとり、またひとりと亡くなっていく。
「みんな同じところに向かっているのよ。違う道を歩いているだけで。」
人間は生まれた瞬間に死へと向かって進む。
最も重いテーマなのに、
この映画にはそれを忌み嫌ったり、
恐れて避けようとしたりする人がいない。
訪れる迎えを受け入れ、向き合って生きる人々の強さがまた
美しいと感じられ、
どこか心地よく優しい気持ちになれる。
少しがっかりした点を言うとすれば
青年期を終えたベンジャミンが
歳をとって少年の姿になってからラストまでが
駆け足、というよりむしろ猛スピードで爆走しすぎて
かなしみに寄り添う暇もなかった。
もう少しもったいぶってもよかったのではと思うけど
あれ以上描きようがないのも分かる気がするし
彼の死だって、彼女の死だって
なにも特別なものではない。
人生を全うした一人の人間が
みんなと同じように、儚く、静かに
ただただひっそりと眠りにつくだけ……
そんな雰囲気だったのかなあ。