ほーりー

花咲く港のほーりーのレビュー・感想・評価

花咲く港(1943年製作の映画)
4.0
【木下惠介特集② ペテン師も立派な師のうち】

『陸軍』から遡って、木下惠介監督のデビュー作『花咲く港』。

原作は菊田一夫のヒット戯曲なので、元々キャラクター造形やストーリーはしっかりしているのかもしれないが、とても新人が作った作品とは思えないぐらいクオリティが高い。

特に女性に対する演出はこの頃から既に巧い。水戸光子、東山千栄子、村瀬幸子、槇芙佐子、いずれも印象深い。

また舞台との差別化を意識してか、室内での会話でも結構カメラを動かして撮影している。また終盤の嵐のシーンも映画ならではの場面だと思う。

口八丁の小沢栄太郎と東北弁丸だしの上原謙扮する二人のペテン師と、善良すぎる村人たちの交流を描いた喜劇。

南九州の小島の村に電報が届くところから物語が始まる。

電報の送り主は、十五年前にその地で造船所を造ろうとして人々に尊敬されていた渡瀬氏の遺児で、亡き父が夢半ばで断念した造船所の再建のために島を訪れるというのである。

この知らせに、村長(演:坂本武)はじめ、網元(演:東野英治郎)、馬車屋(演:笠智衆)、旅館の女将(演:東山千栄子)は大喜び。

ただ不思議なことに同じような文面の電報がもう一通届いていた。

が、念には念をいれて二通送ったんだろうということで気にもとめず、村長らは渡瀬氏の遺児(演:小沢栄太郎)を出迎えに港までやってくる。

一方、旅館の方にはまたも渡瀬氏の遺児を名乗る男(演:上原謙)が訪ねてきたので村人に混乱が広がる。

実は二人とも真っ赤な偽者で詐欺師仲間だった。興信所で渡瀬氏の情報を手に入れた二人はそれぞれ相手を出し抜いて、金を騙しとろうとしたのだった。

小沢の咄嗟の機転で、上原は小沢の弟ということで事なきを得た。早速、造船所再建のため資金を集めることを村人たちに提案する。

まんまと村人たちを騙すことに成功した二人だったが、あまりにも彼らを疑わない村人たちの親切心に、次第に戸惑いを隠せなくなってくる。

集まった金も予定の何倍もの金額に増えて怖くなった二人は早く島から逃げようとするが、あるニュースによって事態は一変する。

という、あらすじ。いつも憎たらしい役ばかり演じる小沢栄太郎だが、本作では「ペテン師も立派な師のうち」と豪語しながらも実は小心者で、話が上手く行き過ぎて途端にオドオドしてしまうのが可笑しい。

上原謙のズーズー弁は役柄の幅を広げるために上原が個人的に習得していたもので、のちに『クレージー作戦 くたばれ!無責任』の社長役でも披露している。

さて製作年が太平洋戦争真っ只中だけあってやっぱりこの映画も戦時中の影響が色濃い。

真珠湾攻撃のニュースを聞いて村人たちが「偉いなぁ」「よくぞやったなぁ」と感心している。

今日の我々はあの戦争の結末がわかっている分、賛同できない台詞だと思うが、当時の感覚からすれば率直な心情だったのではないかと思う。

■映画 DATA==========================
監督:木下惠介
脚本:津路嘉郎
音楽:安倍盛
撮影:楠田浩之
公開:1943年7月29日 (日)
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