みりお

八甲田山のみりおのレビュー・感想・評価

八甲田山(1977年製作の映画)
4.0
NHKホールのシネマコンサートにて鑑賞♫
大きいスクリーンで観られるってだけでも嬉しいのに、生オケ付ということで行ってきちゃいました🤩

しかし内容は本当に重たかった…
死の彷徨とはどんなものだろう、と心して臨みましたが、本当に本当に辛かったです💦

【ストーリー】
日露戦争開戦を目前にした明治34年末。露軍と戦うためには雪、寒さに耐えるための寒地訓練が必要であると決まり、冬の八甲田山がその場所に選ばれた。この訓練への参加を告げられたのが、青森第五連隊の神田大尉(北大路欣也)と弘前三十一連隊の徳島大尉(高倉健)。
互いに八甲田山頂ですれ違うよう行路を定めた2人は再会を誓い合い、互いの行路へと向かっていくが、それは想像を絶する厳しいものだった。

【感想】
訓練という目的のもと雪中行軍へと駆り立てられた軍人たち。
ロシアとの戦いに備えてという気持ちもわからないでもないし、そこまで世界動向の先を見据えて方針決定をしている軍部には、正直感嘆した。
(いまの日本国とは大違いと思ったのはここだけの話)

しかし雪中行軍の中、軍人たちや、木こりやマタギだったにも関わらず訓練に駆り出された人々がバタバタと倒れていく様を見ていると、訓練なのにここまでの命が…と胸が苦しくならざるを得なかった。
軍人として生きたにも関わらず、戦いにすら散れなかった人々。
一般人だったにも関わらず、極寒の雪の中で息絶えた人々。
どんなに悔しく、寂しく、辛かっただろうか。

徳島大尉が率いた弘前三十一連隊は38名編成。
青森第五連隊は、弘前班を上回らねばという上官の意地だけで210名の大連隊としたそうだ。
その分食糧や装備は重くなり、総重量は4トン超。
また遭難した後も、天皇陛下から賜った資材を打ち棄てる訳にはいかないと、炊事用の胴釜などを背負って歩いたそうで、それにより体力の消耗が激しく、隊はあっという間に弱っていった。

また軍隊だけで行軍するという上官の意地により案内人を排除。
案内人を立てた弘前三十一連隊は、224キロの行程を一人の犠牲者も出さずに乗り切ったそうだが、案内人のいない青森第五連隊はホワイトアウトの中迷走。
その結果たった数キロ先の村へ歩き切れず、総勢210名のうち205名が犠牲となってしまった。

その年の東北は大寒波に襲われており、例年の数倍の雪が降ったそうだ。
気温も氷点下20度は優に超えており、とても訓練に適した状況ではなかったという。
しかし"意地"や"見栄"だけで始まった訓練は、それに異論を唱える下士官の声を虐げて実施された。
疑問を感じつつも、上官の言うことは絶対の、明治時代の日本軍。
無能かつ独断的な上官の迷走により、日本は太平洋戦争による甚大な損失へと突き進んでいったんだなぁと感じざるを得ない。
危機に気付きつつも、上官の意見を尊ぶからこそ危険な道へとまっしぐらに進む様子には、心がぎゅーっと締め付けられ、大声を出して彼らを引き止めたい思いに駆られてしまった。

つい史実への感想に偏ってしまったが、映画作品としても本当に素晴らしかった。
169分という超大作にも関わらず、体感時間はあっという間。
しかし内容はぎゅーっと詰まっている。
誤った判断を重ねる様子が懇切丁寧に描かれ、また後半に雪山で続々と兵士が倒れていく様子も、決して同様の画だからと軽視されてはいない。
映像はあまりにリアルで、寒さがひしひしと伝わってくるようだった。
幕間はみーんなホットコーヒーを飲んでたなぁ。笑

それもそのはず、本作は実際に真冬の八甲田山でロケを敢行し、日本映画史上類を見ない過酷なロケとして有名になったとのこと。
実際に数名の俳優はその過酷さに耐えられず脱走したとの記録もある。
また裸で凍死する兵卒を演じた俳優の肌が紫色に映っているのはメイクではなく本当に凍傷になりかけたためという話も残っており、高倉健もこの撮影で足が軽度の凍傷になってしまったとのこと。

しかも主役級も含めて俳優たちの出演料も決して高額ではなかったらしい。
けれど出演者たちは本当に豪華。
主役の高倉健や北大路欣也はもちろん、無謀な判断をする上官には三國連太郎。
雪中行軍の発案者であり、その行方を心配する上官には丹波哲郎と大滝秀治。
北大路欣也演ずる神田大尉とともに最後まで行軍を率いて歩き続けた大尉に加山雄三。
ほんの一瞬しか映らない端役にも、いまや映像界では有名すぎる方々が名を連ねていて、後世に伝えたいテーマを映像に収めることの価値を、出演者誰しもが理解してくれていたのだろうな、と感謝の念を感じざるを得ない。

それにしても高倉健さん、加山雄三さん、その他の方々も本当に素敵。
渋い表情と重厚な声、恵まれた体格。
現代を彩る線の細い俳優さんたちももちろん素敵なのですが、やはり時代の良さを感じますね。
皆さま老齢の名優としか思ってなかったけれど、改めて観るとハマってしまいそう♡
観る前はすこーし気が重かったのも事実だけど、往年の名作を彩る俳優さんたちの良さに気づいてしまい、帰り道では『砂の器』のシネマコンサートのチケットを買ってしまいました✨
次は4月だ、楽しみだな♫
みりお

みりお