発表当時はその過激な内容により、パウエル監督の失脚につながった問題作。
だが、狂気となるニードルの性的なメタファー性をはじめ、当時の制約のなかで生み出されたアイディアはさすがとしか言いようがない。
サイコスリラーとしての面白さもさることながら、なんと言ってもカメラで被写体を捉えることのある種の暴力性と、そこに隠された見るもの/見られるものの欲望を暴き出すメタな批評性こそが画期的。
ヒロインの母親が盲目であることの意味。
恐怖に怯える顔を見るものとは、すなわちスクリーンに目を向けるわたしたちであり、その意味では映画を観るものの欲望をあぶりだす作品たもとも言える。
批評家たちを苛立たせたのは、じつは無意識レヴェルでそれを感じさせたからではなかったか。
「視線とはなにか」というテーマを、ヒッチコックとはまたちがうかたちで問いかけた大傑作。