むぅ

黒い十人の女のむぅのレビュー・感想・評価

黒い十人の女(1961年製作の映画)
3.7
「俺、殺される感じ?」

その昔、バカリズム脚本の今作のリメイクドラマを観ていた。十人の女たちがそれぞれ、一人の男に対し死ねと心の中で呟く笑えないのに笑ってしまうシーンがある。
その時はまだ氷結無糖に出会っていなかったので、カップスープ2袋分は作れる大きなマグカップにドボドボと注いだ白ワインを飲みながら真剣に観ていたら、背後からそう声がした。
声の主は当時の恋人。
テレビを観る私の背中があまりにも真剣だったからだろうか。

「殺されるような事した感じ?」

お互いが入っているグループLINEが鳴った。
「俺と連絡取れなくなったら、むぅに殺されたって事で」

「何した?」
「むぅ毒殺するタイプ」
「完全犯罪出来そうなタイプ」
「それはもう仕方ない」
「『黒い十人の女』観てるね?」

ぴこぴこ鳴るLINEに笑ってしまった。
そう『黒い十人の女』は、野球だと一人あまり、サッカーなら一人足りないという驚異の十股をかけた男を「いっそ死んでくれたら諦めがつく」と女たちが殺人を計画する話。

この十人ってところがミソだよな、と思う。
うち九人は不倫である、という事は一旦置いておく。
もし自分の恋人に他の女性の影があったら。悩むしどういう事になっているのか知りたいと思う。けれどもその他の女性の存在が一人ではなく九人だとわかったら。
私は多分三人目あたりからどうでもよくなり七人目あたりから一周回って感心するかもしれない。
とりあえず自分が一体何番目なのかは知りたい、彼の中での順位ではなく、純粋な時系列として。
そこまで思って、じゃあ一体何番目なら良かったのかと問われると「はて?」となる。
十番目だったら即戦線離脱、一番目だったら事の成り行きを見守りたいかもしれない。何故?と問われたら明確には答えられないが二番目がいちばん嫌かなとなった。
そしてドラマでも映画でも、時系列での"二番目"の方が強烈なインパクトがあるので、何だか妙に納得した。
ちなみにドラマの"二番目"を演じた水野美紀、素晴らしかった。
坂井真紀と酒井美紀はこんがらがらないが、水野美紀と水野真紀は時々...というのは、あれを境になくなった。

時代なのかは不明だがドラマの方では大同小異、不倫をしている側の九人の女は妻に対して罪の意識が一応ある。映画だとそれが一切感じられないところが凄い。

そしてこの主人公の風松吉という男、個人的には1ミリも惹かれないがモテるのがわかるなという描写があった。
十股もしているのに、それぞれの女との初めて出会った時の事は鮮明に覚えていて、何やらロマンチックに語るのだ。そこにほだされてしまう人はいるのかもしれないと思った。

このドロドロ感満載の物語が、ある種の清々しさと共に進んでいくのは最終的に女たちの怒りが、ちゃんと風松吉に向かうところにあるのだと思う。

妻の言葉
「誰にでも優しいってことは、誰にも優しくないってことですわ」
ですよね、となる。
顎が外れそうになったいくつかの友人たちの恋バナを思い出しつつ、最終的に「優しかろうが優しくなかろうが浮気する人はするし、しない人はしないって」というところに着地。

「いや!七つの海を股にかけて、みたいに言うな!」
と突っ込んだ七股の過去を持つ友人の幸せそうなインスタを見て今作を思い出したのは秘密の話。
むぅ

むぅ