滝和也

サボタージュの滝和也のレビュー・感想・評価

サボタージュ(1936年製作の映画)
4.0
後年、この作品をヒッチコックは後悔している。

sabotage 故意に破壊行為を行うこと
その目的はある組織に警告を発したり市民を恐怖に陥れることである。

辞書の一文のアップからはじまる、ヒッチコック英国時代黄金期の作品であり、傑作である。今で言うテロリストのお話。以前から気になって楽しみにしていた。冒頭の内容故である。舞台はロンドン。映画館の経営者が実はテロリストであり、妻と妻の弟はその事実をしらない。警察は彼をマークし、隣の店に潜入捜査官を置いていた…。

テロの方法は爆弾。それを運ぶのは妻の弟、少年である。時計、爆弾の箱、少年、カット割と恐怖の音楽で見せるタイムサスペンス。その時は迫る…。お手本のようだ。これがヒッチコック後年の後悔になっている。衝撃以外の何物でもない。ただここから物語は走りだす。

その後の妻の心象風景の表し方が秀逸だ。舞台が映画館ならではの心理描写、カットのつなぎ、アングルと正にヒッチコックのシーンが展開。また幻がカットインするシーンはハッとするし効果的だ。 

ラスト近くは以前の作品、ゆすりに似ているものの、心理描写が繊細に此処まで行われているので、その時のような観客に迷いはなく、納得できる展開だ。

途中旦那が水族館で取引するシーンも印象的。水槽が画面となり崩れ落ちるピカデリーサーカスが被さる心理描写もうまい。

ヒッチコックは無思想。敢えて何故かを見せず、サスペンスに注力してくる。この時代のモラルを遥かに超えてくる。へイズコードがあったアメリカでは無理な作品だろう。彼の後悔は今でも私たちに衝撃を与えてくれる。

やはりサスペンスの巨人なのだ。

ヒッチインパースンはなし。ちょっと寂しい。
滝和也

滝和也