よしまる

サボタージュのよしまるのレビュー・感想・評価

サボタージュ(1936年製作の映画)
3.6
 月一でヒッチコックを観ておりますが、10月も最終日。上映時間の短い作品を見ようという自分の魂胆がサボタージュw

 が、しかしこれは日本で使われている「サボる」という意味ではなく、会社に対して反抗するための破壊衝動を意味する本来のサボタージュ。その卑劣極まりない行動がとんでもない悲劇を生む悲しいお話だった。

 戦前イギリス時代のヒッチコックの中でも社会派ドラマとしても秀逸で、徐々に明かされていく疑惑、爆弾が準備され爆発するまでのサスペンスのおもしろさも流石。

 軽快な会話劇からどんどんシリアスな展開に短い時間で収束させていく手腕は後のヒッチコック節のフォーマットとして完璧すぎる。もちろんそれを説明的なセリフに頼ることなく映像の積み重ねで丁寧に見せる巧みさがすでに見て取れる。

 映画館の主がもともとどのような人物で、なぜあんなにも美しい奥様を射止め、そしてなぜ活動家として暗躍することになったのか、そしてその相手となる企業なり組織はいかなる悪党なのか、その辺りがまったく描かれていないにもかかわらず悲劇だけはしっかりと描いてしまった点については、原作を映画化する際にどこにフォーカスするかという問題に行き着くわけなのだけれど、尺の短さも手伝ってそこのところのみ少々の物足りなさと、後味の悪さが残る。

 ヒッチコック作品は面白いけれど深みに欠けるというのがちょっとわかってしまう映画かもしれない。ほとんどはそんなこと気にならないのだけれども、この作品に限って言えば、やはり娯楽作品としては悲しい物語に過ぎるということなのだろう。