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マルサの女のモールスのレビュー・感想・評価

マルサの女(1987年製作の映画)
4.5
伊丹十三監督作品。日本が元気でバブル時代の話です。当時は不動産取引に株取引等と儲けてた人が沢山いました。そんな時代背景もあり、税金の問題を題材にした本作はタイムリーだったと思います。

主人公は国税局の査察官の板倉亮子で、演じたのは宮本信子さん。その彼女に対峙するのはラブホテルのオーナー権藤英樹で山崎努さんが演じてました。
権藤英樹は巨額な脱税をしており、巧妙な手口で帳簿をごまかす老獪な男です。実直な板倉亮子と海千山千の権藤英樹の対比は、敵対関係を明確化しており権藤英樹の牙城を板倉亮子がどのように崩すか、終盤まで面白い展開となってます。

映画前半の板倉亮子の活躍ぶりは、仕事の上では情に流されずに粛々と税を取り立てるビジネスライクな女性として描写されてます。老夫婦のスーパー、パチンコ店と税金の申告漏れを指摘する査察ぶりは「できる女」として芯の強さを感じました。
特にパチンコ店の場面は面白かったですね。紙幣に仕掛けたトラップ、事務所をチェックする観察眼、店主(伊東四朗さん)の狼狽ぶりなど本作の真髄がこめられてます。シリアスとコメディが絶え間なく繰り返される抑揚が映画としての質の高さを感じます。

一方の権藤英樹は、非常に女にだらしない。冒頭からそれが分かります。いきなりですから(笑)女で失敗する男も何かカッコ良さを感じます。「英雄、色を好む」という言葉がピッタリです。彼もビジネスライクであります。それは冷徹で鬼のようです。人の命もお金に替える冷酷ぶりでした。

後半、ふたりの対決となります。ラストに近づけば近づくほど、板倉亮子の本来の姿が見えて、権藤英樹が変化の兆しを見せる描写は秀逸でした。
板倉亮子は情に流されないではなく、情に厚い。権藤英樹はその情の厚さで頭が冷やされたようでした。同じ立場には立てないけど、彼女に対してはリスペクトしたようです。そのあたりの潔さは好きですね。
最後の競輪場のシーンの権藤英樹は感傷的になりました。血を見せることによって、彼の無念さを表現してるようでした。同時に彼の熾烈なビジネスの足跡をも暗示しているような…。
ホント言うと竹を割ったラストを期待しましたが、白黒をつけたがる私がヤボなのかもしれませんね。
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