ryosuke

不審者のryosukeのレビュー・感想・評価

不審者(1951年製作の映画)
4.1
女が叫び、カーテンを素早く閉めてクレジットに入るアヴァンタイトルがお洒落。
スーザン(イブリン・キース)の夫のラジオの使い方が実に上手い。不倫現場に流れる「スーザン、すぐ帰るよ」が悲しすぎる。この台詞が流れる直前にスーザンが慌ててラジオを止めようとするが間に合わないというシーンなど良い心情描写。
ファム・ファタールの男版、オム・ファタールといえばいいのだろうか、ヴァン・へフリンの不気味な姿も光る。いやらしく不遜でおよそ好感のもてる印象ではなく、こんな男が何故という気もするが、まあそういうものかな。警官をここまで不道徳に描くのはなかなか挑戦的。
ロージーは「緑色の髪の少年」「エヴァの匂い」と見てきてどちらも個人的にはイマイチだったのだが、本作はかなり楽しめた。やっぱりノワール好きなのかな。
懐柔されたヒロインと向かうハネムーンの行き先がやはりラスベガスであるのもゾッとする。飛行機には乗せられなくても、結局物語は彼の思惑通り進んでいたんだな。
「私の目を見て」は映画では結構成功する技だが、当然サイコパス主人公には効かない。
恥じ入る様子もなく、神妙に「もう銃は握れない」と語るウェブ(不気味!)だが、やはりスーツケースには銃が入っている。ここはかなりギョッとするシーンなのだが、ヒロインは銃を見つけても赤ん坊がいる以上スルーすることにしてしまうのか...と思いきや...。
終盤の砂漠の風景など、思えば遠くに来たものだ感が凄い。スタートから終着地点への飛び具合は中々のものだが、こういう跳躍が映画の魅力の一つだよな。
序盤と同様、やはりレコードから流れる「スーザン、すぐ帰るよ」は止められない。その瞬間に産気づくところなど、怨念すら感じて最高。それまで大人しくしていたヒロインだが、「夫を殺したわね」と迫るシーンは怖い。やはり彼女もまたファム・ファタールだったのだ。
忘れていた頃に、主人公がヒロインの元夫の遺言書を見るエピソードもしっかり回収。
ラストにかけて右肩上がりで面白くなっていく怒涛の勢いに圧倒された。傑作と言って良いと思う。因果応報の“hold!”×3から、フィルム・ノワールというジャンルの構造をそのまま禍々しく視覚化する落下までお見事。
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