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ミュンヘンのpikaのレビュー・感想・評価

ミュンヘン(2005年製作の映画)
4.5
実話と言っても事件や背景そのものが極秘裏に起きたものなので、少しずつ明るみに出ているとは言え真実なのか歪められたものなのか本当の意味でわかっている人は少ないであろう、社会情勢的に非常に微妙な問題でヘビーな事件であるのに、ディテールを替えたりと避けることなく真っ向から映画で切り込む気合いも凄まじいし、それをユダヤ人であるスピルバーグが自分の価値観や意見を偏った形で表現せず貫いた姿勢が凄い。
視点的にモサド側からの面しか描かれていないが、今作は完全な娯楽作として落とし込んでいるので、偏るというより視点を固定することで見やすくわかりやすくしているだけであり、それによって観客に対して偏った思想や価値観を与えているようには思えない。
とにかく観客に楽しんでもらうことを第一に、こういう事件があり、世界にはこんな駆け引きや殺人や復讐が実際に起きているんだと知らしめながらも映画は娯楽作品であるという、一貫した映画人としての姿勢はさすがスピルバーグ、と感嘆した。

民族や宗教、国家間の思惑ゲームの末端で真に命を懸けているのは存在を消された生身の人間であり、殺す者も殺される者も、見も知らぬ者たちによって操作された駒でしかなく、出した結果だけに価値を求められるリアル。
切っても伸びてくる爪の如く消えては生まれゆく駒という存在は、正義も悪も選択することなく意思すら操作された駒として扱われているが、その駒も操作している側と同じ人間で、感情も家族も未来もあるんだというリアルにフォーカスを当てたスピルバーグの視点が素晴らしい。

グロかったりヘビーだったり珍しくSEXシーンなんかも入れつつ、ちょっとふざけたようなシュールな演出もぶちこんでしまうバランス感覚は超圧巻。
スパイ!アクション!暗殺!なんてアクション映画の目玉みたいな要素であるのに地味な画面で淡々と展開する演出がスタイリッシュとはまた違った軽快な重厚さでグイグイ引き込んで夢中にさせられ、瞬間瞬間が常に延々と面白いから長者なのに全く飽きる隙がない、素晴らしい傑作!
長いけど何度も見れるし何度も見たい。
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