よしまる

舞台恐怖症のよしまるのレビュー・感想・評価

舞台恐怖症(1950年製作の映画)
3.8
 月一でヒッチコックをレビューする
「#マンスリーヒッチコック」のお時間です。

今回はアメリカ時代の中期の作品「舞台恐怖症」。原題は「アガリ症」の意味で、とりあえず誰がアガリ症なのか全然わからなくて凹む。

 マレーネディートリッヒ演じる有名女優の夫が殺されるという事件。愛人である男が、恋人未満の若い女性ジェーンワイマンの元へ逃げ込み、事件の経緯を話し始める。こりゃまたいつもながらの巻き込まれ型の主人公かと思いきや実は…。

 本編の主人公はその恋人未満の彼女、ワイマンのほう。女優の卵ながら事件の真相を探り、愛する男のために獅子奮迅の活躍をみせる。いつしか観ている我々は彼女の応援に必死になり、巻き込まれた男のことは知らぬ間にどうでも良くなってゆく。
 これこそがヒッチコックのトリックかと、感嘆してしまった。

 ネタバレするのでたいそう書きにくいのだけれど、この映画には「信頼できない語りべ」による「虚構の回想シーン」が登場する。しかもなんの前触れもなければヒントもほぼ無いに等しい。

 現在ではありふれた手法ながら、当時はさぞ面食らったことだろう。禁じ手として批判されもしたと聞く。

 けれども、映像として提示されたからそれが真実という理由はどこにもなくて、そもそも映画というものが虚構そのものなはずでは無かったか。明らかに矛盾した表現は許されるものではないが、あくまで1人の人物の虚偽、ここは気持ちよく騙されておくのが得というものだ。
 (と、いつも言い切ってしまうクセがあるのでもし矛盾があるようならご指摘ください😅)

 いずれにせよ真相に至るまでのプロットは、メイドになりすましたり、刑事と恋に落ちたり(刑事役のマイケルワイルディングとマレーネは撮影中に熱愛が始まったらしい)、さらにはドレスの血をめぐるミスリードと盛りだくさんで娯楽作としても一級品。
ヒッチコックの力技が光るエンタメ作のひとつと感じた。よ。