ドント

ラヴ・ハッピーのドントのレビュー・感想・評価

ラヴ・ハッピー(1949年製作の映画)
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 1949年。半世紀を越えてなお破壊力を失わないやべー喜劇舞台人・マルクス兄弟の最後の共演作、だが90%くらいはまっとうな出来のミュージカル・コメディ。盗まれたダイヤが貧乏劇団の「食事調達係」の手に渡ったためにドタバタが繰り広げられる。
 盗品が、それとは知らぬ人々の間でアチラコチラと動き回るというしごくまともなあらすじの中で、兄弟3人のうち「機関銃の喋り」担当のグルーチョは本作において語り部であり、出番は10分ほど。「混乱」のチコはうさんくさい詐欺師だが比較的おとなしく、実質の主演は「無言の破壊神」ハーポであり、喜劇としてはほぼ彼の体の張りっぷりにおんぶに抱っこと言ってよい。
 マンガを越える顔面芸、無尽蔵にモノが入りモノが出てくるコート、名演奏家の顔つきでハープを爪弾く姿までほぼこれハーポ劇場といってよろしい。バックステージミュージカルとしてなかなか魅せるものがあるとは言え、ナンセンスとアナーキーなギャグはあまりなく(手鏡のくだりはスゴいと思ったが)、「マルクス兄弟風味」といった印象。なお兄弟3人が同じ画面に揃うショットはない。大変さみしい。
 顔のシワや生え際に濃厚な老いを隠せないとは言え、前述のハーポ、「私は私立探偵。秘密厳守の職業だから、名刺は裏表ともに白紙だ」などと少ない出番でもトバすグルーチョ、女と見るやすぐ食い付くチコなど、全然イケている部分を見せられると「こんなヤワな映画で終わってほしくなかったなぁ」と感じさせる。
 だがそもそもが舞台出身、舞台劇をそのまま映画にした『ココナッツ』で銀幕に殴り込みをかけた兄弟の最後の作品が舞台裏モノであったと考えると、そしてハーポが静かにいなくなってしまい、グルーチョとチコがまたもや怪しい仕事をやっている終盤を観ると、彼らの銀幕のラストとしては、しょんぼりする部分も含めてこれでよかったのかもな、と思ったりする。律儀に過去作への目配せもあったりする。ありがとう狂人兄弟。なおホントは85分じゃなく91分あるよ。
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