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ベニーズ・ビデオのpikaのレビュー・感想・評価

ベニーズ・ビデオ(1992年製作の映画)
4.5
この映画を知った瞬間から頭に付いて離れない「豚の屠殺」というキーワードに恐れおののきビビって今日見てみたのだけれども、ビビり過ぎて「これだけか」と思った自分にドン引き、そして巻き戻ってスローで繰り返され何度も映され麻痺してしまう感覚、キャラクター達の体温のなさがまるで鏡を見ているかのようだと気づいた時のゾッ!と我を顧みる感覚、それこそがハネケ監督の意図、この映画の醍醐味なのだと。。あぁ、もう!!素晴らしい。

そしてこの顔!一度見たらば忘れられぬベニー、君は「ファニーゲーム」のドヤ顔君だな!とウキウキしつつ、そんなことより今作の語られているテーマは21世紀が十余年も過ぎた現代では語られ尽くされたテーマであるなぁと制作年代を考えればさすが目の付け所が違うなどと考えながらも、現実と虚構の境界線とか、どれが作られたものでリアルなのか一見して判断のつかない「映像という媒体」の奥深さは、その存在よりも見る側の精神が永久的に普遍であり続ける以上何年経とうが褪せることはないのだなと改めて実感し、冷え冷えとした。

現実にあるものを切り取って手を加えて「見たいもの」だけをパッケージする「映像=映画」を用いて、観客の最も「見たくないもの」をお届けするハネケ監督の凄さにスッカリ虜。
現代では語られ尽くされたテーマと言っても、それでも自分には関係ない他人事だとしてあり続ける人々に、「いやいや君たちのことだから(笑)」として、常識や倫理という建前で覆った面の皮を一枚一枚丁寧に剥ぎ、「もしも自分の身に起きたら」などといった仮定のレベルを超え、「いやいやいや、君たちが今感じてるその感覚、それ!この映画の中と同じだから(笑)」といった具合に我々の信じてきた自分自身の感情を根底から揺るがしてしまう。

映画の中の出来事を批判的に受け止めれば受け止めるほど自分を否定しているような、居心地悪いったらありゃしない!冷酷無比な演出が最高に素晴らしい。
ラストでどちらの感情が湧き起こるか、常識とはどこにあるのか、宙ぶらりんにて突き放されるニヤリ顔が心底たまらん。最高、ホント最高。
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