亡くなった恋人の子を身籠っていたムースは、1人、出産を決意する。
ドラッグも断ち、生に向かうはずだった彼女のベクトルは、恋人の弟との奇妙な同居生活によって静かに揺らいでいく。
巧妙な犯罪のようであり、同時に上質なカクテルのような作品。
本作にあるのは悪意ではない。これは純粋な毒だ。
淡々と他者との暖かいコミュニケーションが描かれている分、その毒は生々しく私たちの精神を蝕んでいく。
ポランスキーはあくまでホラーとして撮ったが、オゾンはドキュメントタッチで撮る。
こんなこと映画でしか出来ない。
しかし、こんな映画はオゾンにしか撮ることは出来ないだろう。
炎上商法みたいな真似なのに、なぜここまで美しく魅せることができるのか。
あんまり好きな言葉じゃないんだけど、イザベル・カレの役者魂にありったけの敬意を。