ほーりー

風の遺産のほーりーのレビュー・感想・評価

風の遺産(1960年製作の映画)
4.1
スペンサー・トレイシーとフレドリック・マーチの二大演技派のガチンコバトルを観たい方におすすめ。踊らないジーン・ケリーを観たい方におすすめ。

1925年の南部の州で本当にあったモンキー裁判を題材にした作品で、監督はスタンリー・クレイマー。

宗教色の強い南部の州で禁止されていた進化論を公立校で教えたために若い教師が逮捕される。早速、全米が注目するなか裁判がはじまった。

検事側は過去大統領選に三度立候補した法曹界の大物ブレディ(F・マーチ)、そして対する弁護側はかつてのブレディの親友ドラモンド(S・トレイシー)である。因縁ある二人が繰り広げる論戦は次第に白熱する。

聖書だけにあらず、あまりにも過去のことにすがりすぎて、考えることを放棄した人々は本当に愚か以外何物でもない。劇中のある台詞が全てを言い表している。

「九九を必死で覚える子供の心は、君たちの叫ぶアーメンよりはるかに神聖なものなのだ」

さて俳優陣では、マーチとトレイシーの新旧「ジキル博士とハイド氏」の対決が面白い。二人ともウィスコンシン州出身、オスカーを二度受賞と共通点が多いが、この二人の演技の仕方がいかに違うのか本作を見れば一目瞭然である。

また、クレイマーという人はミュージカル・スターを起用するのがお好みらしく、「渚にて」のフレッド・アステア、本作品のケリー、「ニュールンベルグ裁判」のジュディ・ガーランドとどれも各自の個性を上手く活かしている。

今回のケリーの役柄は今までの作品から想像できないようなシニカルで嫌みな新聞記者を演じ、これが意外に様になっているのだ。

最後に、本作の脇役で光っていたのは、ブレディの妻を演じたフローレンス・エルドリッジ、なんと実際にマーチの奥さん本人が扮している。

己の正義を信じるがあまり、次第に孤立していく夫を最後まで温かく優しく見守る妻の姿も印象深い。
ほーりー

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