カタパルトスープレックス

有りがたうさんのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

有りがたうさん(1936年製作の映画)
3.8
清水宏監督による全編ロケのロードムービーです。原作は川端康成の短編小説『有難う』です。太平洋戦争直前の不穏な空気。軽やかな音楽と主人公の「あ有りがたうさん」(上原謙)の爽やかさ。そのギャップが作品に不思議な雰囲気をもたらしています。

時代は不景気。男はルンペン、女は束で売られる時代。本作の少し前に満州事変、続いて二・二六事件が起きています。そんな世相を背景にして「あ有りがたうさん」が運転する乗合バスには売られていく少女が乗り込みます。バスが通り過ぎる歩行者も貧乏ながらも健気に生きていく人たちばかり。峠を二つ越えれば少女が売られていく東京。そんなストーリーです。

めっちゃ暗い話っぽいでしょ?ところが映画の雰囲気は軽快な音楽と爽やかな運転手「あ有りがたうさん」のおかげで、とても明るい雰囲気なんですよ。出発地点から東京まで二十二里。そこでスレ違う人たちも、全く悲壮感がない。全編ロケということは、ひょっとしたらリアルですれ違った人たちなんじゃないかなあ。最後に登場する女歌舞伎一座だって、ロケ中に出会ったんだと思うんですよね。当時の世相を記録する映像資料としてもとっても貴重な作品だと思います。

川端康成の原作では「あ有りがたうさん」と「売られゆく娘」が一晩共に過ごして結ばれます。しかし、本作ではそこはボヤかしている。本作が描きたい部分ではないんですよ。むしろ語り部としての「黒襟の女」(桑野通子)が陰の主人公なんだと思います。「黒襟の女」はすでに売られてしまった少女なんですよ。その目から世相を批判的に眺めている。

それにしても桑野通子はいいなあ。ああいう女性は大好きです。ボクはヤンキーな女性が大好きなんですよ。「アバヨー」って言われてみたい!「コルベットのセコハンくらいの金で、束で売られる女を救えるんだよ」だって。かっこいい。