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有りがたうさんのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

有りがたうさん(1936年製作の映画)
3.8
昭和11年の清水宏監督によるロードムービー。社会の縮図のような乗り合いバスの中で人生が変わった人がいた。

軽快な音楽とともに伊豆の山道を走る乗り合いバス。「ありがとうさん」と呼ばれるイケメン(上原謙)運転手は道々で用事を頼まれる。誰もいなくなるから父親の墓参りしてくれ、言伝て頼む、町に出たら流行りの音楽を仕入れてくれ等々、気のいい運転手は細い道を避けてくれる人びとや荷馬車に「ありがとう」と気持ちよく声をかけていく。

一方、車内は少々不協和音。乗客同士がギスギスしている。というのは東京へ身売りされる娘が乗っていて、気遣う者もいれば、無神経な者もいる。気まずい空気感の出し方が秀逸。

「峠を越えた娘は二度と帰ってこない」

昭和11年(1936年)きな臭い事件が相次ぎ、景気は低迷、地方では子供が生まれれば、御愁傷様と言われた時代。バスの運転手ありがとうさんは、その年に娘を町へ8人送ったという。

のどかな村の風景は今となっては貴重な記録で、そんな景色でも地方に押し寄せた不景気の波。悲しい話か枯れた金山に投資の話、東京で流行りのショウを観た話。格差社会の縮図がみえる。

ありがとうさんは、人びとの人生の橋渡し役でもあった。村を離れバスが目的地に近づくに連れて泣き出す娘。ありがとうさん、さて、どう解決する?? 引き返しても借金は残っている。

戦前にロードムービーを製作した清水監督すごい! ヴェンダースより40年くらい早い。

バスのルートはおそらく西伊豆から三島が目的地で、ロケ地は伊豆~三島間。山道であっても道はしっかり舗装されていて、側溝もあった。観光地だからだろう。1962年の『しろばんば』も伊豆の山道が出てくるのだが、ぼこぼこの悪路だった。
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