じょり

有りがたうさんのじょりのレビュー・感想・評価

有りがたうさん(1936年製作の映画)
5.0
①戦前の乗合いバスに立ち込める悲喜こもごも体験度 128%
②どんだけイケメンやねん上原謙、そして桑野通子を今日から姐さんと呼ばせて下さい度 128%
③清水宏監督とその時代だからこそ生まれたとしか考えられない唯一無二度 100%
マイベストムービー。以下長文です。


文章の内容と同時にその行間から伝わる大切な何かを、優れた小説を読んだ時に感じたことがあるじゃないですか。本作はそれで満ち溢れていました。

バスを避けてくれた人たちに「ありがと〜」と答えたり、街でレコード買ってきてとのお願いを笑顔で引き受ける陽気なだけの運転手ではない、今まで何度も辛いことを体験しこの世を達観したかのような有りがたうさんの、売られる娘や朝鮮人労働者の娘との淡々とした会話。
また、こちらも酸いも甘いも味わってきた桑野通子演じる黒襟の女を中心とした乗客との軽妙なやりとりから感じ取れる、作り手の人生観。
セリフも展開も今では少ないまったりとした速さですが所謂小ネタも面白く和み、映像からは車内の匂いすら感じられるようで、清水監督が小津さんや溝口さんから天才と呼ばれていた理由が分かる気がします。当時の風景や世相など、将来は昔の映画でありつつ歴史的資料ともなるであろう先見性をもって作られてそうですし。

E.クストリッツァ「アンダーグラウンド」のラストシーンで笑いながら泣いた私にとって、映画が他の芸術と違うところは、2つの異なる感情を同時に感じることができる点であり、そう感じさせられる作品を評価したいです。
そんなわけで、悲しくも微笑ましい本作が大好きです。

川端康成の原作も読みましたけれど、監督はあの短編から何をひらめき、映画として製作されたか動機を知りたいなぁ。


………初見は何年か前で、食卓に着きテレビをつけるとちょうど本作が始まりました。当時のBS-2でしたか。「かなり昔の映画やん。へぇ〜…ほ〜…」

その日の晩ご飯は親子丼でしたが、映画が終わるまでに、ふた口しか食べてませんでした。それほど強烈な体験だったんでしょうね。

何度目かの鑑賞。
じょり

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