ばーとん

有りがたうさんのばーとんのレビュー・感想・評価

有りがたうさん(1936年製作の映画)
5.0
天才、清水宏である。彼の映画だと「按摩と女」「簪」の方が有名で、こちらの作品は日本初のロードムーヴィーであり心温まる人情物語、と見る筋が多いが(勿論それだけでも素晴らしい映画なんだが)自分はこの「有りがたうさん」こそ清水宏の映画論が結実した奇跡の一本だと思っている。

「役者なんかモノを言う小道具と思え」の言葉通り、素人俳優の起用、即興性の重視、感情的演技の排除(棒読み演出)徹底したロケーション撮影、等にこだわり抜いた清水の実写主義が、この「有りがたうさん」では殆ど超虚構的な次元にまで突き抜けているように見える。映画演出に神経質な人ならば、この作品のほのぼのとしたストーリーとは裏腹の、全編に渉って漲る異様な緊張感に圧倒されるだろう。

ネオリアリズモの連中やブレッソンよりもずっと以前に、清水は世界で初めて完全な映画的リアリズムを体現したのではないか。映画史のなかでも重要な価値をもつ大傑作。
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