菩薩

曳き船の菩薩のレビュー・感想・評価

曳き船(1941年製作の映画)
4.1
東武伊勢崎線曳舟駅周辺の再活発により立ち退きを余儀なくされる地元商店の苦悩の日々に密着し、現代社会に於いて公益の名の元に切り捨てられていく個人の悲哀に寄り添うドキュメンタリー、では全く無く、ミニチュア特撮メロヒーロードラマとでも言いたくなる濱口竜介もお気に入りの一本。

海難救助船の船長をしているギャバンが、助けた船に搭乗していた自分の妻とは正反対の気質を持つ女性に惹かれてヤラかしてしまうお話。ギャバンには彼の帰りを今や遅しと不安に苛まれながらも待つ愛すべき妻がおり、しかも夫には自分が重病であることは秘匿している涙ちょちょ切れる健気さだと言うのに、引き綱が赤い糸にでも化けてしまったのか彼女の事は顧みずに、大変ロマンチックな逢瀬を重ねやがる(ここが綺麗過ぎる)。

ミニチュアもさることながら、時化で大荒れ大揺れの船内を再現するゆらゆら撮影が見事過ぎて普通に酔う。助けられた側の船長(ギャバンの不倫相手の旦那)が史上稀に見るクズ野郎であるが、海上からのSOSには直ちに飛び付くくせに、目の前のSOSにはまるで気付けなかったギャバンもまぁまぁどころで無くシンプルにクズ。ラストの雨・風、吹き荒ぶ嵐をしかと見据えるギャバンの死んだ目!カッコいいのだが虚しさ漂う締め方にハッとする。僕は浮気はしない、本気だから、じゃねえよ。二人の刹那的な愛を証明するアイテムはヒトデだが、ギャバンはヒトデナシであった、とさ。

お後がよろしくねぇ…。
菩薩

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