しゃにむ

その男は、静かな隣人のしゃにむのレビュー・感想・評価

その男は、静かな隣人(2007年製作の映画)
4.3
「僕を見て欲しい。君の世界に存在したい」


↓あらすじ
会社の人間に小馬鹿にされる冴えないハゲリーマン。金魚に愚痴を聞いてもらいランチタイムに会社を爆破する妄想が生きる糧。嫌いな人間の名前を呟きながら銃に弾を込めてストレスを発散する。もちろん実効する勇気は毛頭ない。しかし発砲事件が起きる。もっとハゲが深刻な同僚が乱射して5人の社員を抹殺したのだ。机に伏せて運良く助かる。密かに好意を寄せていた女性が撃たれて瀕死の状態にある。ここぞとばかりに同僚を射殺。翌日出社するとヒーロー扱い。一気に副社長にまで抜擢される。しかし助けた女性は全身麻痺で助けたことを恨んでいた。男の必死の献身に女性は心を開く。かわいい恋人と恵まれた仕事。順風満帆な人生のはずが…

・感想
虚構に自分を陥れるとどうなるか…ドン・キホーテのように現実が妄想(虚構)に塗り替えられてしまった狂人なのか。はたまた薔薇色の人生を掴んだ幸運の持ち主なのか。妄想なのかか現実なのか容易に判別し難い極めてグレーに描かれる幻想的な物語。いい意味で狂っている。蔑まれ虐げられてきた人生への強烈な憎悪が彼の世界の背後で蠢いている。鏡のように割れたらきっとタールのような粘着質の救いが無い液体が押し寄せるだろう。平凡でどちらかといえばイケてない非リア充でおまけにハゲてる若干気持ち悪い男が不釣り合いなツキに恵まれる。好意を寄せるとびきりの女性の命の恩人になり更に惚れられる男ならよだれが出る展開が起きる。全く世間から認識もされなかった自分が一躍ヒーローになり会社のNo.2に大出世。恋人に仕事にツキまくっている。これ以上に恵まれた人生はなかなか歩めるものではない。非現実的だから余計に怪しい。こんなに順調に進むのはさすがに出来すぎではないだろうか。妄想を具体化したような展開だ。そこまでは普通に鑑賞していたら怪しいなあと思うだろう。怪しいのが前提である。問題は、というか醍醐味は起きていることや起きたことが現実なのか妄想なのかどちらか思い悩むことだろう。後半から動揺の連続で不安になる。かわいい恋人の汚れた一面の発覚。自分が英雄だから好きだと言い寄られているのではないか。完治したら捨てられるのではないか。自分が捨てた私物を全部集めている猟奇的な雰囲気の保守との遭遇。自分が悪者を撃ち殺したはずなのに自分を奪われて自分がやったかどうか分からなくなる。執拗に自分につきまとう精神科医のしつこさも不安を増幅する。お前は病気なのだ。幻聴のように耳から離れない。思考が掻き乱れる。自分はヒーローの自分のはずなんだ。確かに俺がやったんだ。でも自分は一体何をやったのだろう…順風満帆な人生への疑念が一気に暴れ狂う後半の展開から目が離せない。リアルか妄想か。自分が信じられないおぞましい不安を堪能したい。
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