ドント

ザ・バニシング-消失-のドントのレビュー・感想・評価

ザ・バニシング-消失-(1988年製作の映画)
3.6
 1988年。なかなか、よかった。フランスの別荘へと行く途中のレックスとサスキアのカップルだったが、サービスエリアで突然、サスキアが失踪。数年後、彼女を探し続けているレックスの元に……というサスペンス。
「誰がやったのか」「何が起きたのか」「どうなったのか」のうち一番目はのはまるで重要でないかのように早々に映し出され、二番目もそのうちだいたいはわかる。つまり前者2つはレックスより観る者の方が先に知ることとなり、「どうなったのか」を餌に話に釣り込まれていくことになる。実はこれは後半のレックスと同じ構図。いやらしい。
 恋人がいなくなる物語なのに同情的でなく、危ない奴が出てくるのに露悪的でないとても乾いた演出が印象的で、この温度の低さ、そっけなさがまさにこの恐怖映画の肝なのだと思う。散々にトライ&エラーを繰り返しておいてのこの展開は衝撃と言うより現実の偶然性を差し出されているようで静かにとても厭。いやらしい。
 悪い役の人がまったくさっぱり悪い奴に見えないしありきたりな悪い表情もほぼ浮かべない、何だったら愛嬌があるくらいなのもその「現実の偶然性の厭さ」を下支えしている。虚構でありながらこちらの日常の危うさを揺らがせてくるイヤミスムービー。キューブリックが「世界一怖いやん」と褒めた言葉ほどではないが、彼がそう言った理由はなんとなくわかる。
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