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風の中の牝鷄のDolphinPaprikaのレビュー・感想・評価

風の中の牝鷄(1948年製作の映画)
3.9
派手な音を立てながら事故的に階段から転げ落ちる田中絹代に、佐野周二が二階の方から「大丈夫か、大丈夫か」と心配そうに呼びかける。しかし佐野は階段の中段まで駆け寄ると何故かそこでピタッと足を止めてしまい、田中の側まではまるで近づこうとしない。ただそこに静止して、やはり「大丈夫か」と呼びかけるだけなのだ。
非常に違和感のあるシーンであるが、演出の意図は実に明白で、監督小津安二郎は、一人だけの力で立ち上がりふらふらとした足取りながらも階段を再びよじ登ろうとする田中絹代の儚いながらも強い姿を撮りたかったのだ。小津は、その画にこそ観客の情感を揺さぶるようなエネルギーが宿ると信じたのだと思う。
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