茶一郎

農夫の妻の茶一郎のレビュー・感想・評価

農夫の妻(1928年製作の映画)
3.6
「太った雌鶏を狙う狐のようにやって参りました」
 
 妻に先立たれた農夫が再婚相手候補一人一人に会いに行く再婚コメディ。
 合コン(パーティ)に来た女性の中から、農夫がお気に入りの女性をリストアップした。どれもこれも個性的で、正直「美しい」とは言いづらい女性たちに対して、上から目線で求婚していく。「男一人では寂しい」という理由で結婚する、まるで女性をモノ扱いする態度もだが、彼女たちを「太った雌鶏」とたとえる時点でお分かりの通り、この農夫は男尊女卑的社会の代表、女性蔑視も甚だしい。
 しかし、そんな「女性蔑視」を笑っているのが今作であった。
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 ヒッチコックのコメディで言うと、『スミス夫妻』のような結婚を下敷きにしたコメディの原点にある作品かもしれない。デリカシーの欠片もない農夫の発言や、農場の使用人の一挙一動で笑わせる。特に使用人の「結婚式なんてのは、男の希望と女の喜びを押しつぶす工事現場のローラーさ」というセリフ、パワーワード「工事現場のローラー」につい吹き出してしまう。

 逆『かぐや姫』のような求婚合戦、女性に対して上からの農夫に、求婚された女性は「私は自立しているから」「男性の庇護は受けたくない」と農夫を一蹴していく。この辺りの女性差別主義者をギャフンと笑いに変えていく様子が何と愉快なこと。サイレント映画にしては、セリフ(字幕)も多いが、決して見失うことはない。農夫が「本当の愛」気付く瞬間の視覚的な演出も見所。

 ちなみに今作の撮影について、撮影時にカメラマンが病気で倒れたため、監督がカメラを回したという話が本人の口から語られている。今作の出来について、ヒッチコックは「映画的に成功したといえない」と言うが、結果的に当時から現在に続くような「差別」を笑う表現になっている。これは驚くべきか、悲しむべきか。