イルーナ

ポケモン・ザ・ムービーXY&Z ボルケニオンと機巧のマギアナのイルーナのレビュー・感想・評価

3.7
前作『光輪の超魔神フーパ』が、伝説ポケモンばらまきという大盤振る舞いをやってのけたにもかかわらず、歴代シリーズの興行収入最低記録を更新するという、まさかの事態に陥った劇場版ポケモン。
そのために、本作は公開前から敗戦処理ムードが漂っていました。
人気投票の1位を配布すると言っても、前作であれだったから期待できない。
ボルケニオンも亀にドーナツをくっつけたような、とても一般受けすると思えない奇妙なルックス。今までの幻ポケモンと違い、あまりにセールスポイントがなさ過ぎて、「史上初のタイプの組み合わせ!」という苦しい謳い文句。炎・水の組み合わせはイメージ困難だったとはいえ、毎回ポケモンには新しいタイプの組み合わせが出ているから売りになってない……
そもそも、公開当時ポケモンは20周年を迎えたのだから、お祭り作だったフーパと公開順を逆にするべきだったのでは?という声も。
そういうわけで、ネガティブ要素満載の本作ですが……

ところが蓋を開ければどっこい、多くの要素を見事にまとめ上げた秀作となっておりました。
前作から脚本が変わったことでバトルシーンに力が入るようになりましたが、本作はまさにその集大成。単調だった『裂空の訪問者』やDP時代の三部作などが嘘のよう。後半の悪のメガシンカ軍団との大乱闘はその最たるものでしょう。とにかく作画が凄いし、みんなギュンギュン動き回る!

本作のメインテーマは「絆や信頼」でしょうか。
主役格のボルケニオンは、人間に裏切られたり、傷つけられてきたポケモン達を長年守っているという設定。当然人間や、人間に従うポケモンに対しては不信感を露にする。
(捨てられる前にハグされたことでハグ恐怖症になってしまったゴクリンのエピソードには、生々しさがありました……)
そんな態度なのに、サトシが大人の対応をしていて驚く。いつもなら挑発に乗っていたのに、今回はむしろピカチュウの方が乗っている。
大人なサトシ像としては、『七夜の願い星』あたりと互角かそれ以上と言ってもいいでしょう。
まあ、キャプチャーカフスのせいで中盤までひたすら痛い目に遭い続けるのですが……

人間に不信感を持つポケモンと絆を結んでいくという展開は『波導の勇者』と似ていますが、こちらのボルケニオンはべらんめえ口調のおっさんキャラ。そのおかげで重くなりすぎずに見やすい。ルカリオは生真面目で、とにかく愛が重いキャラだったからな……
また、絆というテーマを考えるとキャプチャーカフスの存在は結構意味深。相容れない者同士無理やり繋がれていたのが、中盤その拘束から解かれて、晴れて真の絆を結んでいくことになる。
「ポケモンは嘘をつかねえが、人間は嘘をつく」と言っていたボルケニオン。しかしボルケニオンは皆を守るため初めて嘘をつき、サトシたちは最後まで筋を通す。この対比が素敵ですね。

本作の悪役ジャービスは、出番はそれほど多くないものの、歴代の悪役でも屈指の難敵でした。
メガシンカ軍団による戦力はもちろんですが、そのメガシンカというものが強制で、ポケモンに苦痛を与えるもの。さらに世間知らずだったラケル王子を懐柔、マギアナをあっさり殺害する容赦のなさ、追い詰められれば更なる手段を用意し、自分はさっさとトンズラしようとする手際の良さ。
レベルファイブのキャラクターチックなルックスと裏腹に、文句なしの悪役でした。
(ちなみにラケル王子、どう見てもサトシより年上に見えないし、そもそも「ラケル」という名前は女性名じゃないかとツッコミ所が多い……)

ロケット団は今回久々に目立っていましたね。特にニャースが。ソウルハートだけにされながらも必死の抵抗を見せたマギアナの心境を伝えるという、このポケモンならではの役目を果たしていました。ボロ泣きしていたのはやはり、同じポケモン同士思う所があったんですね……

このように、見どころ盛り沢山でありながら、上記の通り、ネガティブ要素満載だったこともあり、興行収入は前作からさらに大きく落ち込み、ついに20億割れ寸前までに突入。
ボルケニオンはその後長らく配布に恵まれなかったりして、色々不遇な作品です……
このため、次回作からは一気に方針転換が図られることになりました。
本作はXYシリーズはもちろん、シリーズ全体で見ても評価が高めなだけに、もったいない話です。
イルーナ

イルーナ