リッキー

幸せなひとりぼっちのリッキーのレビュー・感想・評価

幸せなひとりぼっち(2015年製作の映画)
4.2
977本目。190313
スウェーデン映画は初めてですが、本作品を鑑賞して、住民が楽しく・安心して暮らせ、何世代にもわたって住み続けられるような地域社会はとても素敵だと改めて感じました。
偏屈な年寄りが周りとの交流によって生きる希望を見つけ、人生の素晴らしさを再発見するような作品はよく見かけます。しかし舞台を閑静な住宅地のコミュニティだけに絞った作品は少ないのではないでしょうか。

主人公は愛妻に先立たれ、単身で暮らす偏屈なおじいさんです。永年勤めていた職場もリストラされ、生きる希望を失いかけて自殺を試みるものの、そのたびに隣人の邪魔が入ります。渋々近所の人たちとお付き合いを始めた彼ですが、交流を通して閉ざされた心が徐々開かれていきます。

主人公の回想シーンでは父と妻とのエピソードが語られます。幼いころに母を亡くし、父子家庭で育った彼は、父からの教育で正直に生きることを徹底的に教え込まれます。そして、妻との出会いによって、愛情あふれる幸せな家庭を築きました。「父と妻」は彼の人生に多大な影響を与えたかけがえのない人だったことがわかります。
これらの過去の様子が現在の彼を取り巻く状況と交互に描かれることにより、昔も今も、主人公は融通が効かない頑固者のようですが、実は正直で不器用で愛情深い人柄であることがわかります。上手な演出だと思います。

この作品を鑑賞して、日本での老後の田舎暮らしの問題を連想しました。
定年まで都市部で働き、仕事をリタイアした人々が家庭菜園など楽しむために田舎へ移住しますが、地域のコミュニティに馴染むことができずに、再び都市部に戻ってしまうことが少なくないようです。
馴染めない理由は様々あるかと思われますが、思い描いていたイメージと大きくかけ離れていることが最大の原因なのでしょう。困ったときだけ隣人に助けを求め、あとは干渉されずに自分達だけで自由に暮らす、というご都合主義は田舎では通用しません。

この作品のコミュニティでもいろいろ自治会で決められた規則が存在していますが、住民同士ルールを守り、近隣の人と交流を持ち、助け合うことで居住者が楽しく安心して暮らしています。主人公の最期のシーンでも多くの方が集まったことから、彼がひとりぼっちではなかったことがわかります。私もこの主人公のように最期は多くの方に偲んでいただけるような人生を歩みたいと心から思いました。
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