MOCO

幸せなひとりぼっちのMOCOのレビュー・感想・評価

幸せなひとりぼっち(2015年製作の映画)
4.0
「父は『お人よし』と言われたが 人がよくて何が悪い?」(オーヴェ)


 2015年制作国のスウェーデンではボックスオフィス(純粋な売り場でのチケット販売)で5週連続1位を記録し、同時期に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』以上に観客動員があり、160万人を越える動員(スウェーデン国民の約5人に1人が観た)を記録してスウェーデン映画史上歴代3位となる興行成績を樹立しているという作品です。

 若い頃に自分が作り上げた街の秩序を守ることに躍起になっている孤独な老人オーヴェが主人公です。学業優秀な少年時代を過ごすのですが、父を亡くし働かなくてはならななくなり、ある日偶然出逢った女性が最愛の妻になります。その妻も今は他界し、子どももなく、職を失い妻の元に逝こうと自殺を試みます。

 コメディに分類されているのですが、コメディの要素は自殺を試みる度に邪魔が入るぐらいで、シリアスなドラマです。

 オーヴェは頑固親父を通り越して、もはや「自己中心」「偏屈」な付き合い辛い老人です。街の人に話しかけられれば「バカめ」「バカどもめ」を捨て台詞に立ち去ります、本当は誰よりも他人を思いやっているのですが、自暴自棄になっているのでしょう。

 そんなオーヴェを自分のペースにグイグイ引き込んでいく向かえに越してきた4人家族の奥さんイラン人のパルヴァネ。古くからの友人の様に「免許を持っていないので病院に送って」「車の運転を教えて」「家では飼えないので(捨てネコを)飼ってあげて」とオーヴェを必要としていきます。
 心臓肥大で倒れ命拾いしたオーヴェに「本当に死ぬのがへたくそね」と笑って話すシーンがあるので、パルヴァネはどこかでオーヴェが自殺しそうな場面を見て、アプローチしていたのでしょう。「孤独なひとりぼっち」を「倖せなひとりぼっち」に変えてくれたのはパルヴァネですよね。雪の朝オーヴェの家に走る夫婦の姿に胸が熱くなります。「お父さんの様に、ずっと心配して見ていたんだね。」

 前半は奥さんとの想い出のシーンを織り交ぜ、後半心臓肥大で倒れた時、パルヴァネに奥さんの想い出を語ることでオーヴェ夫妻の事が解ってきます。それは若い二人には壮絶な人生で・・・。

 ところどころに手を握るシーンがあり、手を握る行為って相手を思いやる気持ちの現れだとあらためて感じました。

 オーヴェの遺言は「私を認めてくれた人だけで静かな式を頼む」、こんな「偏屈親父」の葬儀に参列するのはごく数人と思っていたら小さな教会だけど満席でした、街の平和に尽力した賜物、頼りにされていたのですね。

 ソーニャ役イーダ・エングヴォルさんとパルヴァネ役バハール・パルスさんの二人の女性の笑顔が美しく印象的です。残念なことにスウェーデンの女優なので詳しいことはわかりません。

 主人公オーヴェは59歳の設定ではいささか更けすぎですが、因みに「サザエさん」の磯野波平の設定年齢は54歳なんだか笑わせます。


 頑固おやじはクリント・イーストウッド監督の「グラン・トリノ」となんとなく被るのですが日本人にとっては拳銃の「ドンパチ」がないこちらの方が現実的です。「涙が溢れて止まらない」訳ではないのですが何故か心を奪われます。
MOCO

MOCO