psychedelia

生首情痴事件のpsychedeliaのレビュー・感想・評価

生首情痴事件(1967年製作の映画)
5.0
そのむかし大蔵映画という映画会社があって,ユニークな作品を作っていた。設立第一回作品の『太平洋戦争と姫ゆり部隊』(たしか70mmの大作ではなかったか)を除き殆どが成人映画だったが,当時の成人映画はにっかつを筆頭にわかい才能が鎬を削る活気ある工房だったので,大蔵映画製作のピンク映画にも見逃せないものがいくつかはあったと思われる。だがここが製作した作品は現在殆ど観ることができない。
映画が劣悪な保存状況によって失われてしまう不幸は映画大国らしからぬ日本の悪い現象であるが,本作はその中から奇跡的にこんにち日の目を見た一篇である。本作がVHSでリリースされた当時は他に五六作の発売が予告されていたのに,実際に流通に乗ったのは本作を含め三作に留まった。おそらくオリジナルネガが見つからなかったか,損傷が激しくソフトとして金を取れるレベルではなかったのだろう。しかもリリースから漏れたうちの一作はかつての大映のスター,梅若正二が主演した『怪談異人幽霊』であり,話題性にも富んでいただけに残念なことこの上ない。
当時リリースされようとしていた一連の作品は,大蔵貢社長お得意の闇鍋映画の一つである「怪談+ポルノ」という複合ジャンルのシリーズで,そのタイトルも『生首情痴事件』『怪談バラバラ幽霊』と物凄い。こういう外連味溢れる名付けのセンスは新東宝時代から変わらない。
1967年に本作が製作されたということに私は一つの驚きを覚える。『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』や『ローズマリーの赤ちゃん』が68年の公開だということを念頭に置くからだが,本作の渇いた恐怖感覚はまったく時代を先取りしている。時は全共闘酣の時代,暗鬱な時勢に影響されているのは間違いないが,それを鑑みてもこの硬質さは異様だ。意図的にドキュメンタリー・タッチを狙っているならばともかく,厳然たる劇映画でこの徹底ぶりは何だろう。
低予算のピンク映画だからといって馬鹿にしてはいけない。ここには成長途上にある映画の夢が痛いほどに満ちている。あらゆる藝術媒体が繁栄と豊満を経験しやがて枯渇と掉尾を過ぎた現代。吹き均される砂のように,酷使され消費される現代人の感性を陶酔さすべき熱気がこの時代の映画にはあった。表現とは技術でなく(無論それも必要不可欠だが)叫びである。与えられた題を定石に沿って加工するのでなく,作家の思想をそこに形象化するのだ。藝術とは本来そういうものである。
psychedelia

psychedelia