シズヲ

サンダーハートのシズヲのレビュー・感想・評価

サンダーハート(1992年製作の映画)
3.7
インディアン居留地で発生した不可解な殺人事件、その裏に隠された真相をスー族の血を引くFBI捜査官が追う。舞台となるのは1970年代、すなわちNIYC(全米インディアン若者会議)やAIM(アメリカインディアン運動)などの団体が積極的に活動していた時代。合衆国におけるインディアンの権利と自由が大きく変わりつつある中、未だに厳しい境遇に置かれている貧困保留地の生活と保守/革新の狭間で揺れ動く部族社会が描かれる。

荒野の僻地に位置する“別世界”、スラム同然の町で貧困生活を余儀無くされる現地人、権利運動によって分裂する部族、そして居留地内の天然資源を巡る騒動。スクリーンではあまり焦点を当てられることの無い“近代以降のインディアン居留地の姿”が生々しく映し出されている。過酷な環境に置かれながらも儀式や風習によって文化を繋ぎ、部族としてのアイデンティティーを保ち続けている姿が印象深い。ヴァル・キルマー演じる主人公は当初こそスー族の血を引いていることを軽視していたものの、インディアンの文化に触れていく中で徐々に己の血脈に対する“誇り”に覚醒していくのが良い。

公開年やグレアム・グリーンの起用など『ダンス・ウィズ・ウルブス』の影響下にあることは漠然と想像できる。サスペンスとしては少々散漫でテンポの牽引力に欠けているし、主人公の心情の変化に関しても受動的な神秘体験に頼り過ぎている印象が否めない(というか全編を通して露骨に神秘主義的なきらいがあるのはちょっと気になる)。それでも終盤には清々しい決着が訪れるし、インディアンの生活環境の描写も含めて興味深い作品となっている。しかしデニーロが製作に携わっているらしくて驚く。
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