しゅん

下宿人のしゅんのレビュー・感想・評価

下宿人(1926年製作の映画)
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シネマヴェーラ、ヒッチコック特集。

サスペンスがエロスを育むヒッチコックサイレント期の傑作。「下宿人」アイヴァー・ノヴェロ登場時の笑えるほどの不穏な妖艶さは『クリーピー』の香川照之ばりの胡散臭さを醸し出すし(美形なのに)、部屋に入る時の光の当たり方やチェスの駒が落ちる時のカット割り、首を動かさずに瞳を左右に移動させることで不信感を表現する演技など、ひとつひとつの演出がいちいち秀逸。特に大いに攻めている入浴シーン(足をばたばたさせるジューン・トリップ!)では湯気とタバコの煙が連帯することでエロスが絶頂に達して最高。劇中三角形が象徴的に使われるわけだけど、ジューン・トリップの笑った時の口までが逆三角形を形成しているのは驚きました。幸福さと不穏さが同居するラストシーンは正に至高。『アンダルシアの犬』よりはるかに実験的なのに物語としても優れていて、今まで観たヒッチコック(といってもさして観ていませんが)のなかでもベストかもしれませぬ。

白黒映画ながら、夜の街中は青い色づけ、クライマックス後のラスト数分はピンクの色づけがされててとても良かったのだけど、あれはオリジナル時からあった演出なんだろうか。ピアノ型のタイプライターや輪転機の長回しなど、気になるシーンが多数あります。
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