komo

ダージリン急行のkomoのレビュー・感想・評価

ダージリン急行(2007年製作の映画)
4.1
父親の死以来しばらく絶縁状態であった3兄弟が、インド北西部を走る列車【ダージリン急行】内で待ち合わせをし、再び結束を深めるための旅をすることを誓い合った。
しかし長男のフランシス(オーウェン・ウィルソン)はバイク事故で凄惨な怪我を負った後で、いまだに包帯ぐるぐる巻き。次男のピーター(エイドリアン・ブロディ)は離婚を考えていた妻が妊娠していることを知ったばかりで、強く動揺している。三男ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)は小説書きだが、別れた恋人を忘れられず何かと不安定である。
仲良くしようと誓ったはずの兄弟はちょっとした綻びから大喧嘩。乱闘の末、ついに列車を降ろされてしまう。


親交を深めようという理由で再集結した兄弟は、それでも価値観や境遇の違いがどうしようもない壁となり、誓いを破って諍いを起こしてしまいます。
そんな"理性ではどうにもならない感情"のやり取りが、美しくデザインされた列車のセットの中で行われるというアンバランスさが好きです。
やがてその素敵な列車から降ろされてしまう3人。
しかしウェス・アンダーソン監督にかかれば、平坦な砂の地も、そこに刻まれている虎の足跡も、燦々と降り注ぐ太陽の光さえも、すべてがお洒落な要素として成り立っていました。

踏んだり蹴ったりで悲しい事件にも出会ってしまうやるせない旅。
おまけにようやく消息を掴んだ母親は、夫の死という現実からも、再会を望む子供たちの申し出からも逃げ続けている。
けれど兄弟の中にその母を攻める者は一人もおらず、避けられてもまた会いに行こうという気の持ち方を見せてくれます。そんな独特の明媚さに溢れた展開が美しいです。

兄弟たちが終盤で、あるものを投げ捨てたのには驚きました。
当初はそれを大切に抱えて進むことこそが、信頼関係を取り戻すための糸口のように描かれていたのに。しかしそれをかなぐり捨てた彼らは、何かを脱ぎ捨てて自由を得ることができたように見えました。
3人はもう、「兄弟だから」「親がいないから」といった"口実"の許にある間柄ではなく、本当の意味の信頼関係を築くことができたのではないかと思います。

前日譚を描いた短篇映画『ホテル・シュバリエ』ではパリが舞台で、本編とは対照的な世界観となっていました。余白のあるぎこちない会話が聴きどころです。
ナタリー・ポートマンの綺麗なお肌に目が潤いました(*´`)
komo

komo