Azuという名のブシェミ夫人

ダージリン急行のAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

ダージリン急行(2007年製作の映画)
3.9
急げビル・マーレイ。
君の乗りたい列車はもう動きだしている。
タイトルバック代わりに列車名の表示が映される。

『THE DARJEELING LIMITED』

走る走る・・・しかし無情にも列車になかなか追いつけない。
そんな彼を横目に軽やかに走り抜き、見事に列車へ飛び乗るのがエイドリアン・ブロディ。
サングラスを軽く上げ、『お先に!』とばかりに振り返る。
ウェス作品の中でも最高に好きなオープニング♡
情けなさ表現100点満点のビル・マーレイ(最高)がスパイスとなって、エイドリアン・ブロディがやたらとカッコ良く見える。

狭い列車の造形・内装、特注のトランクケース、相変わらずオシャレで可愛い。
ゴチャゴチャした街や列車の中、それと対照的な雄大な景色。
インドという国のバランスが、意外にもウェスがいつも狙っているであろう構図にピタリと来る。

父の葬儀から一年後、それ以来会っていなかった変わり者三兄弟が長男フランシスの号令でインド旅行へ。
個性がバラバラ過ぎる上にお互いの足を引っ張り合うものだから、当然グダグダの旅行である。
インドの“それ”らしく、寺院を巡ったり、謎の祈祷をしてみたりするのだけど、そもそも仏教徒でないにしても戒律破りの行動が目立つのはウェスの策略でしょうね。
人の物を盗んではならない・・・兄弟のとは言え、航空券やパスポートを盗む。
不道徳な性行為をしてはならない・・・列車のアテンダントと♡♡♡
嘘をついてはならない・・・嘘と隠し事、秘密だと約束しといてあっさりばらす。
他にも色々しっかり掟破りのくせに、やたら律儀にお祈りする三兄弟に苦い笑いがこみあげる。笑

しかし、そんな目的が“行方不明”になっちゃったこの旅は、ファザコンでマザコンな三兄弟がきちんと親離れをして、本当の意味で巣立つ為のものだった。
一年前から長々と続いた“葬儀”だったのですね。
心の荷物を捨てた彼らの表情は爽快。
そうだよ、自分で捨てるのと忘れるのとは別だから。
お別れだって、忘れるという事ではないから大丈夫。

(でも、あーーーー勿体なぁぁぁーい!と思ったのは秘密。私の修行がまだまだ足りぬ)

彼らに必要だったのは、神や仏への“信心”などではなく、シンプルに兄弟同士の“信頼”だったんだ。
パスポートを預けられるような、シンプルなね。