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カノンのRのレビュー・感想・評価

カノン(1998年製作の映画)
4.5
前作にカルネという映画が存在するのだが、見てなくてもオープニングで高速おさらいしてくれので、それ何回か見たらだいたいどんなおかしな話か分かります。冒頭からかなりユニークな字幕の使い方に魅せられ、画面に映ってるものに関係あったりなかったりな肉屋のおっさんの心のつぶやきに一気に心奪われる。しかもベラベラベラベラずっと心で愚痴ってる笑 彼にはものすごデブな奥さんがいて、奥さんのお母さんと3人で、田舎町で暮らしてるんやけど、この老婆の臭さといったらハンパじゃない、けど、更にその上をいくこのデブの臭さ…みたいな周りの人たちの悪口と、自分の仕事がないこと、お金がないこと、人生が不自由であること、若い女とセックスできないこと、などなど世界のあらゆることに対してノンストップで毒を吐き続ける。表面上は無口で無表情。ところが、あまりに奥さんに無能をなじられるもんやから、ブチギレて、腹にいる子どもを力の限りドスンドスン殴りまくって、田舎の町を捨てパリに逃亡。しかし、パリではさらなる仕事のなさと赤貧に苦しみ、金も尽きていって、行き場がなくなり、次第に心の声が怒りと憎しみに支配され、精神がやばい状態になっていく。結局人間は、孤独に生き、孤独に老い、孤独に死んでいく、家族がいてもみんなほんとはひとり、友だちがいても、子どもがいても孤独、しかも人生は無意味なクソでしかなく、することといえばセックスして子孫を残すことだけ……てか何でオレはこんなヒドイ状態で暮らしてるんだ、オレをこんなヒドイ状態にしたヤツに復讐してやる、ピストルで殺してやる、ブーーーム! ブーーーム! みたいな。それが徐々にエスカレートし、最終的に怒りの叫びとなって、見てるこっちはひいいいいいって感じになる。ある時はその絶望が笑いを誘い、ある時は最高に陰鬱な気分にさせる。まさに全世界に裏切られた人生の地獄を、肉屋のおっさんの主観を通して描いてると言える。けど、世界に裏切られた原因は、本人は気づいてないけど、そのおっさんの中にしかないというのも見ててよくわかる。まーホントに、最初から最後まで負の感情で満ち満ちてて、希望や光が一瞬たりとてないとんでもない映画。ブン!ブン!みたいな変な効果音と共に時間スキップしたのかしてないのかよーわからん奇妙なカットが頻繁に入ったり、バキューーンって銃声と共にカメラが一気にズーーーン!!!とズームインしたり、視聴覚的を変に刺激してくる。時々出てくる字幕もものすご印象的。ATTENTION 劇場を出るならあと30秒、とカウントダウンが始まって、DANGERが画面いっぱいにチカチカして、こういうのは映画館の大画面でみたらさぞ最高だろうな、と。そっからもはやモラルも正義も何もない、あまりにも残酷で凄惨なシーンが待っています。興奮と混乱と狂気でわけわからなくなり、うわーー!うわーー!うわーー!うげーーー!ってなったあとで、一瞬えっ⁈ってなって、うおおおおおおお!!! おおおお……ってなってその直後に、え!えええええ!!! ってなって、終わります。お楽しみに。これで5回目見たんやけど、思ったのは、歳を重ねるごとに、このおっさんのリアリティがものすごく現実的に日本社会にも蔓延してるものに思えて、何とも言えない気持ちになってきます。何の愛も希望も潤いも意味もない人生に、どれほど多くの人が圧倒され、それを胸に秘めて無表情で生きてるか、考えるだけでクラクラくる。こうならない生き方を常に意識して追求してないとヤバいよね。けどカルマというのはどこまでもしつこいんだな。自分なりの発想のループという牢獄からなかなか抜け出せない。やから現実も変わらない。こえー。ちなみに前作カルネは本作の爆発的なダークさとは異なる陰湿なダークさを持った作品な記憶があって、見たいんやけど、どこにもレンタルしてない。見たい。
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