櫻イミト

パリの連続殺人の櫻イミトのレビュー・感想・評価

パリの連続殺人(1966年製作の映画)
3.5
クリストファー・リー出演。英ミステリーホラーのカルト作。1962年まで実在したパリのグランギニョール劇場をモデルに吸血連続殺人事件を描く。撮影は「博士の異常な愛情」(1964)「フレンジー」(1972)などの名匠ギルバート・テイラー。原題「Theatre of Death(死の劇場)」。

パリ・ピガール街の伝統あるグランギニョール劇場。警察外科医チャールズは恋人の女優ダニーの新作公演に訪れる。舞台は大成功に終わり、チャールズは打ち上げパーティーに誘われる。前任の演出家の息子で、新任の劇場監督ダルヴァス(クリストファー・リー)は、余興として「セイラム魔女裁判」の一幕をダニーと新人ニコールに演ずるように命ずる。その演出法は高圧的かつ催眠術的で、ニコールは我を失いダニーに怪我を負わせそうになる。その後、ビガール街で不可解な連続殺人事件が発生する。どの被害者にも吸血されたような痕跡があったのだ。。。

オリジナリティーがあってかなり楽しめた。英ハマー・プロとは明らかに異色で、グランギニョル劇場のいかがわしさを際立たせる極彩色の照明美術、そしてニューロティックなムードは同時代のジャッロを連想させる。ただし殺害や死体のドギツイ描写は避けられているのが英国風。ギルバート・テイラーによる手持ちカメラの撮影が功を奏していて、劇場内部のゴチャついた臨場感が巧く醸し出されていた。

シナリオには、セイラムの魔女、ドリアン・グレイ、フロイト、カニバリズムといった単語が衒学的に散りばめられ好事家心をくすぐられる。終盤には意外などんでん返しもありミステリーとしても楽しめた。ただ“吸血”の要素を組み込むならば、対応した映像が欲しかったところ。

スラッシャー映画史に先駆作の一つとして本作の名が挙がっているのを読んだことがあるので、欧米のマニアの間では有名な作品と思われる。日本では劇場未公開でソフト化もされていないため殆ど知られていないが、1970年にTBS「金曜映画劇場」にて放映されたとのこと。

※サミュエル・ガルー監督はテレビ畑で活躍した職人監督
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