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マーゴット・ウェディングのrokurotのレビュー・感想・評価

マーゴット・ウェディング(2007年製作の映画)
3.7
「肉親より好きな人を見つけるのは難しい」

婚約者のマルコムを褒められた時、マーゴットの妹ポーリンは甥のクロードにそう言葉をかける。

母であるマーゴットから突き放されて、気落ちしているかもしれない彼に、優しさで言ったのか、本音を出したのか。どちらにせよ、物語全体を通して血縁者同士の関係を描いているこの作品が言いたかったことが、この言葉に凝縮されているように思う。

主人公であるマーゴットは、ことあるごとに白ワインを飲んでいる。夫や息子から出る「クスリの飲み過ぎ」という言葉から分かるように、彼女は何かしらの病に罹り、精神的に安定していない。

精神安定剤を飲んでいるのかもしれないし、白ワインが「クスリ」の役割を担っているのかもしれない。はっきりしないが、彼女が病んでいることは間違いない。

マーゴットは度々、違うと思ったことに対して、感情のまま言葉をぶつける。

息子であるクロードや妹のポーリンに対してだけでなく、子供に自閉症の可能性があるにも関わらず医者に診せていない養父に対してや、子供の腕を強く引っ張って歩く隣の家の夫婦に対しても。

しかし、なんでもかんでも感情のままに話すわけではない。彼女が怒る理由には必ず肉親や子供が関わっている。夫であるジムに対してぶつけた感情も、ジムの行動の中で自分に関わることに対して怒ったと考えれば、血の繋がった者も含めて、自分を投影できることにだけ怒っているように見える。

反対に、親族や子供の話題以外、全くの他人のことについては話をしない。妹の婚約者マルコムや不倫相手ディックとも、一切。会話をしたとしても、そこには必ず妹や息子や自分の話題がある。

車で夫と話し合いを始めようとした時、途中、道端に見えた犬を抱えて困っている人を無視しようとした。おそらく、彼女は他人に興味が持てない、どうでもいいと考えてしまうのだろう。そんな自分が嫌で仕方ないのかもしれないが。

だからこそ、マーゴットは血縁者に対しての愛情は人一倍ある。妹のことを心配して、婚約者のことを酷評したり、息子に献身的になってほしいから、結婚式の手伝いをしないとわざと叱ったり。悪いことを言うのは、愛情があるからこそで、直してもっと善い人になってほしいから。

そして、彼女は他人に興味を持てない自分に失望している。それはもう治らないのだと気づいている。気づいているからこそ、少なくとも自分にとって愛情を持つことができる肉親は繋ぎ止めようとする。

様々なことを考えた結果、絶縁状態にあった妹の結婚式に参加しようと思ったのかもしれない。

「発達障害」という言葉が物語中出てくる。社会性や共感性がなく、他人と上手くコミュニケーションが取れない。マーゴットにはその片鱗を窺わせる描写がある。

「私が「一番大切な友達」だって。めったに会いもしないのに、「親しい」なんて、そう願うだけ・・・私から離れて。私も私が嫌い」

自分から離れていく妹に失望し、同時に離れて行った原因は自分にあると思ってしまう。悔しくてたまらない彼女は涙を流す。

最後には自分の息子でさえも、傷つけてしまうため、遠ざけようとするが、どうしても離れることができず、鞄も上着もおいて、必死で走り出す。追いついて、息子に走ったことを繰り返し伝えるマーゴット。

頭で考えるよりも体が勝手に動いたように見えて、そんな自分が少しだけ誇らしそうで、少しだけ愛らしく思えた。

エンドロールで流れるカレン・ダルトンの「Something On Your Mind」。繰り返し歌われるのは「悔やんでいるだけでは、何も変わらない」という言葉。

最後に少しだけ、彼女が変わったように見えた。

面白かった。


(マーゴット以外の感想)

ポーリンのクロードに対する態度は一貫している。優しく語りかけるような、勇気を与えてくれるような。甥や姪という兄弟姉妹の子供という立場が、最も客観的に話せる相手なのかもしれない。

互いの子供たちの間で、兄弟姉妹に隠していた話が漏れて、関係がこじれるというのは良くあることなのかもしれない。

監督の映画には電車やバスや車の中がよく出てくるが、乗り物に乗っている人間の心理は何処かに向かっているということに影響を受けることが多いから、描かれているのかもしれない。

特に車は運転する人と乗っている人では、全く立場が違って、心情も変わってくる者なのかもしれない。

登場人物が歌う歌や、劇中で流れる歌には意味を込められる。それは説教くさくならず、心地の良いリズムで伝えられる手段になると思った。

ジャック・ブラックの情けなく卑屈な男が物語上で浮いていて目立っていた。この映画を喜劇たらしめたのは間違いなく彼だった。


○プロットポイント
・隣の家の夫婦と道端で口論
(何とか仲良くしていたムードを壊す、良くない方向に流れを変える)
・クロードが隣の家の子に噛まれて、マーゴットと喧嘩、平手打ち(肉親でさえも、関わるのが思うようにいかない。離れようと考える予兆)


○印象に残ったセリフ・シーン
 更新中


なんでもない会話で物語を進めるこの監督。誰に何を話すか。いつどこで話すか。そこにはどんな物があるのか。すべてに意味があり、できるだけ自然に、あからさまには意味を持たせないようにということに細心の注意を払っているのが良く分かる。

あまりにも説明を省略しているため、それぞれの登場人物がどういう役割で、今何を問題にしているのか一見してはわからない。マーゴットもただの自分勝手な嫌な人として見る人が多いのではないか。会話ばかりで進むために集中して見ていないと何がどうなっているのか分かりにくい。それがほとんどの人に刺さらない理由だと思う。会話に意味を込めすぎると、万人受けしないことの良いお手本である。

しかし、だからこそリアリティを持っていると感じるし、よく観る人にはその素晴らしさが伝わる。

面白かった。
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