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1942奇談のhorahukiのレビュー・感想・評価

1942奇談(2007年製作の映画)
3.7
3月23日公開『コンジアム』に向けて♫

実在の心霊スポットを題材とした評判の良い韓国産POVホラー『コンジアム』がついに公開されるので、チョンボムシク監督の過去作を見て行こうと思います。

本作は1942年日本占領下の朝鮮の安生病院を舞台として、そこでの四日間に起こった奇妙な出来事に生涯を支配されてしまった主人公パクチョンナムを描く怪奇譚。彼が晩年1979年に命を絶つところからスタートし、当時を回想するような形でその四日間の出来事が明らかになって行くという構成の作品です。

あまりにも美しい女子高生の死体に惹かれていく医学生(①)。交通事故で父と母を亡くし、1人無傷で生き残り失語症となった少女(②)。連続殺人事件の検視を担当する女医を妻に持つ夫(③)。この3人の視点で物語を紡ぐオムニバス形式を取りつつも、同時間同場所での出来事のため、それぞれが密接に関連し絡み合って行く面白い構造の作品でした。


戦争により親も夢も奪われたが、裕福な家庭に育てられたパク。望んでもいない夢を押し付けられ、初対面だと言っても良いほどに関係性の希薄な女性との結婚が勝手に決められている。そう言った自己のない人生を強いられる抑圧への抵抗からかパクは死体へと惹かれていく…。死体への恋は決して叶わないという自覚があるからこそ、自身の人生の鎖を強固に感じさせ、その退廃的で刹那的な安息がより一層物悲しさを浮き立たせる。巡り行く四季と人生を屏風に反映した虚実入り混じった表現が面白く感じました。


なぜ少女アサコだけが無傷で生き残ったのか。彼女の元に現れる血だらけな母親の霊。アサコの罪悪感と贖罪の気持ちから生まれる怪奇現象。その血だらけな悍ましさの中に現れる雪や眩い光のどこか幻想的な美しさ。救いという彼女の心の中での清算がもたらす希望が温かさを帯びて感じられたのが良かった。


露骨すぎる『サイコ』オマージュが楽しい。ここまでガッツリ『サイコ』してるの初めて見たかも…。「憑依」とは何なのか。魂は存在するのか。その答えを全部自分の口から語ってしまうのですが、その答えを自覚してるからこそ、悲しさが際立っていたと思います。

全てに共通するのは「家族」を失った痛み。そして「いない」ことが当たり前となった日常の歪み。直接的に言及はされないけれど、その原因となるのは戦時下における社会的混乱であり、戦火はなく一見平穏に見えつつも市井の人々にいかに影響を与えたのかを、戦争がなかったとしても起こり得る極めて身近な物語を通して描いている。

死が毎日のように蔓延る戦時中の病院という異質な空間が本作の幻想的な映像表現と絶妙に融合し、慈悲と無慈悲という正反対なものを画面内に並存させ、何とも言いようのない感情が湧き上がってくる。新味や面白味のある内容ではないけど、映像の美しさや演出面で見どころの多い作品でした。
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