Mikiyoshi1986

不安は魂を食いつくす/不安と魂のMikiyoshi1986のレビュー・感想・評価

4.5
初老の未亡人エミと、モロッコ移民男性アリとの愛を描いた物語。
人種、そして年齢の垣根を越えたこの奇異な愛は、果たして成立し得るのか。
ファスビンダー監督が1974年当時の西ドイツもとい、ヨーロッパ全体に蔓延る移民問題と人種差別を絶妙な切り口で描いた傑作です。

当時は「黒い九月」等のアラブ系武装集団が欧州でテロ事件を起こし、ドイツ・ミュンヘンオリンピック事件では世界に多大な衝撃を与えました。
そして今現在もドイツをはじめヨーロッパ各国では移民・難民に対する処置問題が激化しており、パリでの同時多発テロを機に連日異様な緊張状態と厳戒体制が敷かれています。

周りから浴びせられるアラブ人への差別と偏見の眼差し。
アリとの仲によってご近所、同僚、そして家族までもが冷ややかな態度へと急変していく疎外感。
淫売と罵られ、無視され、精神を擦り減らしていくエミ。

ここでは「ドイツ国家」という、かつての外国人排斥のお国柄を少なからず写し出しているようにも感じます。

20年前に亡くなったエミの夫は戦時中の出稼ぎ労働者だったポーランド人で、両親は彼との結婚に反対だったと彼女は語ります。
「私の父は外人嫌いだった。ナチス党員だったから。私も党員だったの。当時は皆そう」

ユダヤ人迫害という負の歴史を持つドイツが、未だ消えぬ人種差別の気質を覗かせるかのように。
その後のヘルツェゴビナ人女性への対応や、エミとのシンクロが問題の深淵を浮かび上がらせます。

移民排斥の連鎖を止めるには、彼らとの共存共栄を模索するには、一体どうすればいいのか。
この作品が投げ掛けられてから早40年、奇しくも答えは未だ出ていないのが現状のようです。