KnightsofOdessa

不安は魂を食いつくす/不安と魂のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

4.0
No.588["幸福が楽しいとは限らない"] 80点

せっかくファスビンダーの箱を全部揃えたのにあんまり観てないことに気付いてしまった(n回目)。彼の映画を観るのには非常に体力を使うからあんまり連続で摂取すると死んじゃうと言われてるとか言われてないとか何とか。題名の"Angst essen Seele auf"は文法的に間違えており、正しくは"Angst isst Seele auf"となる…んだっけ?ドイツ語選択だったけど分からんから取り敢えずそっ閉じ(多分それで合ってるはず)。主演は当時のファスビンダーの恋人エル・ヘディ・ベン・サレム。日本語字幕で再現されている彼のたどたどしい言動も、ドイツ語の動詞を活用してないからだと思われる。多分。それともう一人「キュスタース小母さんの昇天」でも家族を含めた誰からも理解されない老婆を演じていたブリギッテ・ミラが再び主演で登場する。孤独を煽るロングショットでの彼らの虚ろな表情にはなんとも言い難い名人芸の域。加えて、階段と窓枠を使ったいじめのシーンやドア枠を器用に使ったロングショットの寂寥感は特筆に値する。一番のお気に入りは子どもたちとアリの初対面で皆でワンショット→アリとエミ→子どもたちそれぞれ→長男ブチ切れのとこ。カット割りが流麗で泣いた。

旅行に行く前後でエミとアリの周囲からの態度が一変するあたりから、人間誰しもが持つ差別意識が興味の推移と共に移ろいゆくもの(他人→アリ)であると同時に深く根ざした差別意識(エミ→アリ)は決して消えないことを如実に語るようになる。興味がなくなって実害がないと分かれば人は利益と娯楽を取るが、常に近くにいるとなれば相手を自分ナイズしようとして自分と異なる部分を軽蔑し始めるのだ。

ファスビンダーにしては感情表現が控えめなので勝手にブレッソンを思い出して盛り上がっていた。が、多くの場合サークとハリウッド・メロドラマとの文脈で語られることの多い作品であり、私の頭の中が爆発寸前まで追いやられていることが示唆される。1971年にサークの映画に出会ったファスビンダーはひどく感銘を受けたらしく、大衆向けメロドラマを作り始めることになる。といっても内容は"パートナーによる愛の搾取"であり、どのへんが大衆向けなのかはよく分からん。1972年の「エフィ・ブリースト」にてその風潮は頂点を迎えるが、製作が一旦中断してしまう。その時期に製作されたのが本作品である。特にサークと結びつきが強く、「天が許し給うすべて」のリメイクであるとまで言われているが、例に漏れずそっちを観ていないのでなんとも言えない。確かに極彩色の色彩美はサークっぽさがある(適当)。ちなみに、「エフィ・ブリースト」を完成させたファスビンダーは以降夫婦を描かなくなる。

ドイツ語ってルールに忠実だからルールさえ覚えれば簡単って言われたんだけど、ルールがめちゃくちゃ多くて複雑だった覚えしかない。
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