LalaーMukuーMerry

シェーンのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

シェーン(1953年製作の映画)
4.3
私の大好きな「遥かなる山の呼び声」(山田洋次監督)はこの映画を日本用にリメイクしたというのは有名な話。元の方を見たこと無かったので、恥ずかしながら初鑑賞。
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主人公シェーン(=アラン・ラッド)は過去に訳ありの謎の男、でも世話になったスターレット一家のために力を尽くし、男の子ジョイに好かれるいい奴。 目にもとまらぬ早撃ちで、敵であるライカ―一家をやっつけた後、「一度でも人を殺せば、後には戻れない」と、かたぎの一家から去っていく・・・ カッコいいですねぇ、高倉健さんと重なりますねぇ。
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「遥かなる山の呼び声」では、健さんは、夫を亡くして女手一つで牧場経営する倍賞千恵子さんの家に居候して仕事を手伝い、二人は互いに惹かれていくのだけれど、「シェーン」の方は、シェーンと美しい奥さんマリアンは互いに惹かれたには違いないが、夫ジョーがいたからそこは抑えなきゃね。ゲスな私は、二人がダンスするのをジョーが見ていたシーンでその先の展開がちょっと心配になりましたが、何事もなく良かったです(笑)。
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舞台はワイオミング州ジョンソン郡、グランドティトン国立公園の山々が背景として聳える美しい風景の土地。時代は南北戦争(1861-65)の頃、ペリーの黒船来航(1853)より後だというのが不思議な感覚にもなるが、坂本龍馬が憧れたアメリカも、西部の開拓地はこんな感じだったのね。
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大事な背景として、1862年にリンカーン大統領の時に成立したホームステッド法(自営農地法)というのがある。開拓地に入植した農民が5年間耕作すると、一定の土地(160エイカー=65ヘクタール)が無償で入植者のものになるという法律だ。アメリカンドリームを農民サイドから支えた法律でもある。シェーンが守ったスターレット一家は、この法律を頼りに入植してきた開拓者農民だった。
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悪人として描かれていたライカ―一家は、先にこの地にやって来てインディアンとの戦いに勝ち、大規模牧畜業を営んでいた。先住民を追い出して奪い取った土地を牛の放牧に利用していたライカ―一家にとって、広大な放牧地は彼らの既得権だった。新法の施行によってその放牧地が開拓農民に奪われ始めて苦々しく思っていたライカ―一家は既得権を守るため嫌がらせをして農民を土地から追い出そうと画策していた。時代が移り変わる時の、既得権者と新規参入者の戦いが描かれているといってもよいのでしょう。
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もう少し踏み込んでいえば、アメリカはこの当時、開拓農民を保護する方向に舵を切っていたのだから、(既得権者の権利は一部しか認めない、もっと言えば彼らを切り捨てる方向に舵を切っていたのだから)、スターレット一家のジョンが自分たちに非はなく、このまま引き下がるわけにはいかないと考えて当然だったのでしょう。ライカ―一家のやり口は人としてあるまじき事だから、法による後ろ盾を持って来ずとも、観客はスターレット一家に感情移入するのは当然ですが。
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一人殺しただけでも大ごとだという人殺しのリアリティが、この作品にはありました。銃による決闘の前には、銃なしの乱闘があった。その乱闘もやってはいけない一線を越えたもので、一線をこえてしまっては行きつくところまで行ってしまうと感じる感覚は大切にしたい。
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人が虫けら同然に殺され、いとも簡単に一線をこえることをヒーローがやってしまうというアクション映画が、最近は乱発されているように感じる。昨今、世界中で発生する銃乱射事件は、こういう映画に影響うけているに違いないと感じるのは私だけ?