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実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)の一のレビュー・感想・評価

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3時間という長尺も気にならないくらい面白いし、絶対に若松孝二にしか撮れない映画を若松孝二その人が撮ったことに感銘を受けてしまう。新左翼運動を学生運動から順序立てて浚っていく序盤こそあからさまに金のかかってない全体的なルックが衣装中心に気にかかるが、山岳ベース事件とあさま山荘事件を丹念に扱った中盤以降、若松映画の真骨頂である閉鎖的な密室が現れると、そんなことは何も気にならない。“総括”という言葉を一生分聞いたのではないかという森恒夫と永田洋子が主導する12人連続リンチ殺人が極めて陰惨でありながら半ば滑稽(実際、劇場ではたびたび失笑が漏れていたのである)にも描かれる(軍国主義下の理不尽な下等兵イジメをイヤでも想起させられる)のとは対照的に、山荘に立てこもり遂に実際の権力と銃火を交えた5人に対する若松の視線には失われた未来への喪が、決して全てが間違っていたわけではないのだという意地が、含まれているように思える。坂井真紀が演じた遠山美枝子は、若松と足立正生による悪名高いアジテーション映画『赤軍 PFLP 世界戦争宣言』(重信房子本人が出演している)の赤バス上映運動にも関わっていたらしく、だからこそ若松自身無関係ではない彼女を含む12名の被害者に対する弔いの比重も大きい。にしても永田を演じた並木愛枝は素晴らしかった。というわけで日本の戦後左翼への興味が更に高まってしまった。ところでジム・オルークさんは若松作品がとにかく大好きで、この映画のために日本語を勉強したらしいです。ラストのBill Fayカバー◎。
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