うえの

イングロリアス・バスターズのうえののレビュー・感想・評価

3.7
第二次世界大戦の中、ドイツ軍の占領下にあったフランスを舞台に、ナチス親衛隊に家族を虐殺された復讐に燃えるユダヤ系フランス人の女性ショシャナ、ドイツ軍指導者暗殺を目論むユダヤ系アメリカ人のアルドレイン中尉率いる米陸軍特殊部隊「バスターズ」らの戦いを描いたクエンティンタランティーノ監督による戦争娯楽大作。

ユダヤ人によるドイツ軍への復讐という重めのテーマでありながら、豪華な俳優陣による大仰でクセの強い演技や2時間半超の尺をほとんど会話劇で展開していく構成で緊張感溢れながらもユーモアに富んだ内容で全く飽きさせない痛快なエンタメ作品に仕上がっていた。

タランティーノ監督お得意の「無駄話」も戦争中かつスパイとして潜入しているという特殊な環境下とあってかどこか意味のある、もしくは相手に正体を悟られるヒントになりうる会話内容になっていて、会話の細部に深い意味やミスがあるのではないかと気になって仕方なくなる、今までの作風と違った演出となっているような気がした。
さらには英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語を巧みに操る登場人物の中でも、言葉遣いや発音、アクセントの不自然さが目立ち、終いには身振り手振りすら怪しいと思われてしまう(らしい笑)、一つ一つの行動言動に重要な要素が含まれていて、会話劇に更なる緊張感をもたらしていた。

そんな中、何よりも存在感を放っていたのがSS(ナチス親衛隊)のハンスランダ大佐演じるクリストフヴァルツである。
フランスの片田舎、ラパディット宅を訪れた冒頭20分の尋問シーンはまさに映画史に残るOPで、紳士的で友好的な振る舞いの裏に秘められた有無も言わさぬ威圧感や腹の底の読めないポーカーフェイスなど見るからに「ヤバイ」人物と感じさせる圧倒的な存在感で一気に引き込まれた。
自らを有能な探偵と称するように周囲の人間や状況を考察する観察眼に長け、自らの優位性を確保しつつ行動する狡猾さも兼ね備えた、ある意味無敵の悪役を見事に演じ、その年のアカデミー賞助演男優賞とカンヌ国際映画祭の男優賞の受賞を始め、賞レースを総ナメする大活躍を見せた。

もちろん彼のみの活躍ではなく、主演の残忍かつ冷徹な特殊部隊「バスターズ」を率いるアルドレイン中尉には大スターブラッドピット、ナチへの復讐に燃える美しきユダヤ人女性ショシャナにメラニーロラン、ドイツ軍の英雄にして映画スターのフレデリックにダニエルブリュール(自信家で空気の読めない鼻につく軍人の演技が絶妙!笑)などタランティーノ組に初参加の俳優陣がそれぞれ癖の強い演技で魅せる。
特に序盤から中盤にかけてナチのプレミア上映会に潜入する手引きとして、ドイツ人女優のブリジットフォンハマーシュマルクと合流するために「バスターズ」と手を組んだ英軍のヒコックス中尉演じる我らがマイケルファスベンダーとドイツ軍のヘルシュトローム少佐らとの腹の探り合いを繰り広げるバーのシーンは最高だ。
前述の発音やアクセントの違和感から始まる尋問さながらの会話や楽しげに見えるトランプゲームが数十分に渡り続くシーンなのだが、これがいつまでも観てられる名シーンだった。
もちろんアクセントがおかしいだとかは全く分からないのだが、ドイツ語とフランス語の発音の独特さが好みど真ん中で(変態?)、耳にも目にも楽しいシーンの連続であった。

キャスト面や意外なストーリー性から往年のタランティーノ映画とまた一味違った作風かなと感じつつも、ノンクレの声のみで盟友ハーヴェイカイテルとサミュエル伯父貴が出演している往年の友情を感じる熱い起用や映画のフィルムを燃やしてナチを根絶やしにするというまさに映画をもってして悪を倒すというタランティーノの映画愛が爆発して傑作の1本と感じた。
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