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飢餓海峡のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

飢餓海峡(1965年製作の映画)
4.0
【ミステリーの醍醐味を表象するということ】
業火包まれる質屋から2人の男が飛び出してくる。市民は燃え盛る質屋へと眼差しを向ける中、彼らはひたすら遠くへ行こうとする。彼らは強盗、一家三人を惨殺した挙句、放火し、大金を抱えて逃げているのだ。3人目の男も加わった逃避行。同じ頃、嵐で青函連絡船が沈没し530名の命が亡くなる。その中に、身元不明の二つの死体が見つかった。弓坂刑事は、この死体が一家惨殺事件の犯人だと推察し、最後のひとりの行方を捜す。

水上勉の同名小説を映画化した本作は、犯人が最初から明らかにされているにもかかわらず巧みな演出で最後まで退屈させることがない。冒頭で、犯罪者の逃避行が描かれるのだが、ヒッチコック『見知らぬ乗客』におけるブルーノが溝にライターを落としてしまい回収できるか否かの宙吊りのサスペンスによって観客の心がヴィランに味方をしそうになるのと同様に、電車に乗れるか否か、人ごみに紛れられるか否かといったヒリつく脱出劇に惹き込まれる。

運命が手繰り寄せられるように生き残った男・犬飼のもとへ弓坂刑事の足跡が近づいてくる。後半は会話劇形式で事件の真相が明らかとなる。ここで我々が知った気になっていた事件の裏側が明らかになるのだが、ここでの演出が興味深い。

切り返しのショットで論戦が繰り広げられる。事実を提示する際には新聞写真のような静止したイメージを並べていく。一方で真実が語られる部分では、動なるイメージで語られていく。ミステリーにおいて、事実と対象だけが知っている情報を突合しながら真相が組みあがっていく醍醐味を映像で見事に表現しているのである。
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