松井の天井直撃ホームラン

春琴物語の松井の天井直撃ホームランのレビュー・感想・評価

春琴物語(1954年製作の映画)
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☆☆☆☆

今では眼が見えなくなってしまったお琴が、雪の冷たさを思い出しながら舞う場面の美しさが白眉。

作品中に佐助が物干し場で三味線を練習する場面が有り。同じく伊藤大輔監督作品・主演京マチ子の名作『いとはん物語』を思い出す。
美術監督は別なれど、音楽も同じく伊福部昭。
あちらはカラー作品で、セット美術で描かれた夕日の美しさが悲劇性を増幅させ。こちらの涙を搾り取られたものだった。

お琴の美しさを妬むのが杉村春子。
もう素晴らし過ぎる(^.^)
いつまでもこの女の嫌味顔を観ていたいと思わせてくれる。

そして映画は終盤の《その場面へ》

分かりきっているにも関わらず、ドキドキか止まらない。
作品中に何度も重なるお琴と佐助の手のカットこそ、2人の気持ちの通い合い。
単なるその繰り返しと言えるのに、《その場面》の後に起こる、なかなか重ならない2人の手。
ただそれだけで、何故にこれ程までに感情を揺さぶられてしまうのか?
まさに悲劇の名匠伊藤大輔の真骨頂と言っていいクラシカルな演出に酔わされしまった。

2018年11月9日 国立映画アーカイブ 長瀬記念ホール OZU (旧国立近代美術館フイルムセンター大ホール)